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 タッパーを入れていた紙袋に成田の枕を無理やり詰め込んで、そのまま千博の部屋を後にした。丁度昼を過ぎた時間帯で、俺はコンビニでパンなど買って、例の堤防へと足を運んだ。
 鉄橋の真下の広場では、小学生が真剣にサッカーをしていた。その様子を、パンを齧りながら土手から観察した。よくぞあんなムキになって一つのボールを追えるものだ。感心していると、はたと気がついた。
 そっか。俺は、あんな感じだったんだ。
 ムキになって、一つのものに集中し過ぎたんだ。だから他が見えなくなった。視野が狭いわけだよ道理で。こんなんで映画監督とか目指してて大丈夫なのか俺。
 自分の横に寝かせた紙袋を漁って、中からアルバムを取り出す。千博に借りてきた5年前の写真群。ぱらぱらと捲ると、出演者やスタッフが写しだされた写真が出てきた。勿論、俺や千博も写っている。そのアルバムの終わりの方に、5人の小学生がアップで写っている写真があった。俺はそれを引っ張り出した。目を凝らす。その内の一人。野球帽を目深に被った童顔の少年。5人の中で一番目を引く存在。
 5年前、俺は彼に難題を押し付けたのだ。




「人が足らないな」
 俺の一言に、記念すべき俺たちの処女作の脚本を手がけた島原が腕組みをして唸った。しばらく唸っていたが、ついにぽんと手を打って、遠くで草野球をしている小学生数人を指差した。
「あれを使おう」
 俺が彼の指先を追うと、丁度小学生グループも、カメラを持つ俺たちの方を見てグローブの影でひそひそと密談を交わしていた。
 映画と言っても、予算など全くなかったので、実家から失敬してきたハンディカムで済ませようとしていた。後は安いマイクと、どこかの大学から借りてきた小さい照明器具ぐらいで、野次馬の千博を含めてスタッフは5名だけだった。しかも役者は3名のみ。島原の脚本では、最低10人は役者がいる。
「…今書き直せよ」
「無理だよぅ。だってオレ実は、レポートやらないと単位やばいんだよ?その合間を縫って書いたんだよ?今更書き直せったってさあ、あの時の火事場の馬鹿力みたいな奇跡的なインスピレーションなんて生まれるはずも…」
「分かった…。よし、じゃあ役を合体させよう。特にこいつ必要ねえって奴を消して、別の重要な役とひっつけよう」
「それって、脚本の段階で考えるんじゃないの?」
 千博が土手に座って鋭いことを言う。そうである。本来なら、役者が3人しかいないと分かっている時点で、島原がそういう内容の脚本を書いてくれれば問題はなかったはずなのだが。彼も彼なりに苦労したようだし、仕方がない。
「残念だけど、無理だよ。だってオレも何度も考え直したんだぜ?役者3人しかいないっつーのは分かってたしさぁ。でも駄目なんだよ。何度考えても、どうしても、10人は必要なんだよぅ。だってオレ、役者いっぱい出てくる映画が好きなんだよぅ」
「知らねえよお前の好みは」
 呆れて言い返すと、島原が項垂れた。それを見て、主役の奴が口を尖らせる。
「それにさ、役をくっつけるってことは、俺らの台詞も増えるってことだろ?今からじゃ覚えきれねえよ。ただでさえ島原のホン、台詞多いのに」
「台詞多い話が好きなんだよぅ」
「知らねっつの」
 溜息と共に吐き出すと、いつの間にか小学生らが遠巻きにこちらを見つめていて、居心地が悪かった。大の大人8人がカメラ提げて土手をうろついているのである。そりゃ目立ちます。移動しようと腰を上げると、小学生の内の一人、一番体の大きい子が声を掛けてきた。
「なにしてるの?テレビ?」
「違うよ。自主映画」
「映画?映画撮ってるの!?すっげー」
 子どもらがわいわい騒ぐ。でもテレビで見たことない人ばかりだーと呟いているのが聞こえてきた。
 島原が指を鳴らした。
「ほら、この子たちに手伝ってもらおうぜ!どうせ不足してる役は、別に子どもでも良いわけだしさ!」
「学芸会になるだろ」
 俺がぼそっと呟くと、騒いでいた小学生の内、野球帽を目深に被ったいちばん体の小さい子が、むっとしたように言った。
「いっちゃんは劇団入ってるんだぞ!前に雑誌に載ったんだぞ!な?」
 そう言って同意を求めるように、斜め後ろに立った細身の背の高い子に声を掛けた。5人の小学生の中で、確かに一番大人っぽい顔立ちをしていた。中学生と言われても納得できそうだ。
「マジで?」
「いえ、あの、親戚がやってる小さい劇団に入ってるだけです」
 彼の謙虚な態度に心打たれた俺は、彼らを使うことに決めた。ここでうだうだしていても始まらないと思ったからである。
「よし、んじゃこの子らに手伝ってもらう。あと、千博も参加してくれよ」
「えええ!?無理だって、演技なんて!!」
 千博が力一杯否定したが、ここは監督の権限で強制した。小学生5人の配役も俺が決めた。一番台詞と動きが多い役を、劇団に入っている子。その次に重要な役どころは、野球帽が目印の小柄な子にした。何故なら、5人の中で一番小さいのに、一番存在感があったからだ。
「君、重要な役だから頼むぞ」
 台本を真剣に読む彼に声を掛けると、顔を上げて少年が言った。
「オレ、『きみ』って名前じゃない」
「子どものくせに細かいことを気にする奴だな」
 俺が文句を言うと、千博が彼に尋ねた。
「なんて名前?」
 彼が、言い難そうに早口で言った。
「…成田千歳」
「マジで!?空港かよっ!!」
 俺と千博の声が重なった。二人して爆笑すると、成田少年が顔を赤くして立ち上がって怒鳴った。
「大人にこの名前言うと嫌だ!!めちゃくちゃ笑われるもん!!」
「いいじゃん!成田に千歳って!絶対忘れられないじゃん!」
「懸賞とか当たりそうだよな。名前で」
 俺と千博がいつまでもあっはっはと笑っていると、少年は真っ赤になって怒ってしまった。
「オレ、やらない!」
 帰ろうとする成田少年を、なんとか捕まえて諭す。
「まあ待て待て!成田くんがいないと困るんだよ、お兄さんたち。それにほら、君の役どころ、結構重要なんだ。帰られると、すんごい困るからさぁ。ほら、よく見てみ?君の役は、劇団員のいっちゃんの次に大事なんだよ。俺、君の存在感を見込んで、この役に決めたんだ。だから、もう少し付き合ってくれよ。な?」
 俺の言葉に、成田少年が足を止めた。
「存在感…?」
「そう。黙ってその場に居てるだけでも華があるってーか、分かりやすく言うと、目立つ?」
「…オレが?」
 さっきとは打って変わった少年の戸惑ったような表情に、俺の方も戸惑いを感じつつももう一押しと踏んで続けた。
「ああ。平たく言うと、舞台向き。裏方ではないな。裏方で使うには勿体無い。ちなみに俺は完璧裏方タイプだけど」
 素直に思ったことを口にした。いっちゃんが、もし劇団員ではなかったとしたら、きっと俺は成田少年にその役どころを任せていたと思う。
 少年が俯いてなにか考え込んでしまった。俺はその小さい頭を片手で掴んだ。
「今回の件で、もし芝居が面白いと思ったなら、君は役者やってみろよ。したら、一番最初に俺が使ってやる」
 成田少年が俺を見上げる。にやっと笑った。
「……わかった。約束だからな。絶対、忘れんなよ」



 その後の芝居で、成田は全く使い物にならないことがわかった。台詞は覚えられないわ、棒読みだわ、大事なとこ噛むわ、早口で滑舌悪いわで、散々な結果に終わった。
 全く持って俺の見込み違いだったらしい。
 そして撮影を終えたその日の夜。
 俺は人生ベスト3に入る大失態を犯す。せっかく撮影した録画を消してしまい、後日、撮影班全員から大激怒の洗礼を受けることとなったのだった。












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「…何してんの、こんなとこで?」
 土手に大の字で寝転がっていると、頭上から呆れたような早口が降ってきた。
 俺は目を瞑ったまま答えた。
「就職活動中〜」
「…嘘吐け。未来の映画監督が」
 溜息と共に、俺の隣に座り込む気配がした。俺は片目を開いた。私服姿の成田が、手ぶらでしゃがみ込んでいた。まっすぐ、広場で遊ぶ子どもらを見つめている。
「お前は?」
 俺の質問に、成田が顔をこちらに向けた。無表情。
「別に…。忘れ物、取りにきただけ」
 その言葉に、俺は上半身を起こして、横の紙袋を成田に渡した。
「?…なに?」
 成田が不審な目を俺に向ける。受け取って中を覗くと、目を見開いて俺を見つめた。
「千博ん家にいたのか。灯台下暗しだな」
 成田が不貞腐れた表情で言う。
「千博さん、あんたより数万倍親切だったよ。メシも美味かったし、ペットはカッコいいし」
「カッコいいペットって…」
 妙な表現だな。俺が呆れた表情を見せると、成田がそっぽを向いたまま言った。
「…言っとくけどオレ、謝らないからな」
 和解する気はないらしい。俺もそう思っていた。
 突然現われて素性も知れないしムカつくし失礼だし生意気なガキだし10言ったら5000返ってくるし俺の神経逆撫でする行動ばっかしてくるし。
 …最悪な奴と知り合ってしまったと思っていた。
 けど、きちんと5年前に俺たちは出会っていた。
 しかも、こいつの大事な将来を、俺は無責任な軽い発言で導いてしまっていたのだ。
 そして予期せぬ再会。酔った勢いでの未成年に対するワイセツ行為。
 …マジでどんだけ犯罪繰り返せば気が済むんだ俺。


 暗雲を背負ってへこんでいると、成田が静かに尋ねてきた。
「伊部さん、もう映画は撮らないの?」
 俺も静かに答える。
「撮るよ。…約束だから。それ撮るまでは、頑張る」
 成田が目を見開く。俺はその間抜けな表情に問うてみた。
「お前は?なんで役者目指してるの?前にさ、どれだけ人を騙せるのか知りたい、みたいなこと言ってたろ。あれって本当か?そうじゃないんだろ本当は。自分の心をどこまで騙せるのか知りたいんじゃねえの?本当の気持ち押し隠してどこまで耐えられるかって。そっちが本心なんだろう?」
 畳み掛けるような俺の質問に、成田は圧倒されたような表情を浮かべてから、やがて小さく笑った。
「オレはMか」
「家に帰れ。人を頼れ。素直になれ。ふらふらすんな。自分をしっかり持て。学校にちゃんと行け。家族とちゃんと話し合え」
「命令すんな。関係ねえくせに」
「使ってやると約束した」
 俺の言葉に、成田が顔を上げて、驚いたように俺を見つめる。それから顔を歪める。
「…忘れてたくせに…」
「さっき、思い出した」
「最悪だよ今更。大体、詐欺だよ。人に役者んなれっつったくせに、自分は無職でフラフラして監督のかの字も見当たんないような生活してるくせに…」
「お前、言葉過ぎるのが難点だぞ」
「やってる時も『ちひろ』って呼ぶし…」
「それ以上言うな!!!」
 俺は即座に立ち上がって成田の前に片手を広げて制した。
 成田が大きく息を吐いてから、両足を伸ばして後ろに両手をついた格好で話し出した。
「5年前、あんたに言われてから、オレはいっちゃんに劇団紹介してもらって、マジで役者やってみようって頑張ってたんだよ。早口なのと滑舌の悪さが難点だったけど、段々認められるようになって、小学校卒業の時の公演では準主役に抜擢されたりした」
「すげえじゃん」
 素直に褒めると、何故だかじろりと睨まれた。
「…けどそっからが最悪だった。その時の公演で、初めに劇団入ってたいっちゃんが端役だったんだよ。そっから気まずくなって、後から来たオレに抜かれたってかなりへこんで自信なくして、結局いっちゃんは辞めてった。それが原因で、小学校のときの他の友達とも疎遠になった。
 そんで、中学入った頃に、父親がリストラされて劇団入る余裕もなくなって結局オレも辞めた。じゃあ部活で演劇やってみるかと思い直したんだけど、学校の文化系って大抵女子で占められてたんで諦めた。
 どうしようかなって考え込んでたら、テレビでたまたま大学生が芝居好きな人たちのためにボランティアで公演やってたりするっていうから観に行った。そこで知り合った人たちから、ただで芝居見れるところを色々教えてもらって、しょっちゅう学校さぼってうろちょろしてたらしまいに親に見つかってめちゃくちゃ怒られて、その頃もう親父は仕事見つかってたから、また劇団入りたいって言ったら猛反対された。そんで益々親と険悪になるしで、家帰り難くなってふらふらしてたら、ボランティア劇やってた大学生と再会して、行くところがないなら来ればって言うから着いてったら怪しげなアパートの一室に連れ込まれてやばいなーと思ってたら5人くらい学生が待機しててその内一人はカメラセットしてるしマジでこりゃやばいって焦ってたらいきなり押し倒されて最悪だと思ってたらたまたまアパートの隣が火事になって危機一髪逃げたところにたまたま配達に出てた徳川さんのバイクに轢かれそうになってそれが縁で今のバイト紹介してもらってその時にようやく徳川さんからあんたのこと聞いたんだ。知り合いに25過ぎてふらふらしてる映画監督志望がいるって」
 後半早口だったが、淀みなく話す成田の言葉に半ば感心していると、彼が一息ついて立ち上がったままの俺を見上げた。
「徳川さんにあんたの存在聞いたとき、もしかしてって思った。オレの、今いる動機を作ってくれた奴だから。いつか絶対、ざまあみろあんたの言う通りすっごい役者になってやったぜ文句あるかあんたがオレの才能見っけたんだから責任取れみたいな気分で再会してやろうと思ってたんだよ」
 成田の真摯な眼差しに俺は圧倒されていたと同時に罪悪感を抱く。
 俺のあのときの軽い言葉が、ここまでこの子の原動力になってたとは、まるで想像もしてなかったから。
 俺のその複雑な表情を見て、成田が口の端を上げた。
「なのに失恋のショックを延々と引き摺って飲み歩いた挙句に車内でゲロ吐いてその始末させられて更に仕方なく送ってやったら玄関で押し倒されるし3回もするし名前間違えられるし結局オレのことひとつも覚えてないし」
「す、すみません…」
 俺はその場で正座した。
「絶対忘れられない名前だとか言っておきながらキレイさっぱり忘れてるし自分の言った無責任極まりない台詞も忘れてるし無理やり錠剤飲ませるしゴーカンしといて謝ってないしオレのこと追い出して失礼なことばっか言うし…という以上の事柄から、オレが死ぬほどあんたに意地悪なのも納得できません?」
「すみません、できます…」
「よろしい」
 溜飲が下がったらしく、成田が満足げに大きく頷いた。
「あんたが、千博さんに未練めちゃくちゃぶら下げてるってのは分かってたから、わざと意地悪したんだ。あの人の家に行ったのも半分ワザと。てか、あの人の方がすぐにオレのこと思い出してくれたし。やっぱあんたにあの人は勿体ないよ」
「…わかってるよ」
 痛いほど、よくわかる。俺じゃ千博にとっては役不足だって。それは思いをぶつけてようやく分かったことだ。でも、ぶつけなきゃ、きっと俺は一生分からなかったとも思う。


 正座して顔を伏せた状態の年上の俺と、偉そうにふんぞり返って腕を組む年下の成田の様子を見ていたらしい広場の小学生共が、「あの人年下の人に怒られてやんの」と陰口を叩いているのが聞こえてきた。何とでも言うがいい。今現在俺は甘んじて罰を受けているのだ。これくらい、耐えねばならない。俺が今までにしたことは、アホ過ぎて全く自慢にもできないし、公衆で怒られるという羞恥プレイと引き換えにチャラにすることも不可能だろうからだ。
 成田が小学生らを片手で追い払うと、改めた様子で口を開いた。
「あと、千博さんから伝言も頼まれてる」
「伝言?」
 俺が顔を上げると、成田が目を逸らした。広場で野球を再開する小学生らを見つめる。
「『成田千歳を、伊部直幸係りに任命するから』って」
 俺が目を見開くと、成田が照れた顔を隠すようにして素早く立ち上がった。
「以上!じゃあ、オレバイト行くから」
「成田!」
 行こうとする彼の手首を掴んで、俺は慌てて言った。
「お前、俺の前で演技したことある?いつも、素だったよな?」
 俺の前では素直じゃなくていつもふざけてて意地悪だった。初めに言ってた、役者になりたいという動機とは程遠く見えた。どこまで本心を隠せるか知りたい?そりゃ普段の生活で演技する必要はないけれど、俺といるときは、本心を隠して、俺と接していたようには見えなかった。
 成田が足を止めた。俯いて不貞腐れたように呟く。
「…正直、あんたが有名な監督とかになってなくて良かった。他の人の前なら、余裕で作れるけど、…あんたの前で、演技する余裕ないから」
「…約束は?果たせるか?」
 俺の低い問いかけに、成田が俺の手を振り払った。土手の上まで駆け上がると、振り返って笑顔を見せてくれた。
「あんた次第。準備しとくから、努力しろよ」
 両手を空に向けて突き出す。努力しているのであろう証拠の、腹の底からの力強い声を張り上げる。
「オレは伊部係りだから、死ぬまで応援してやるから、負けないで頑張れ」
 小学生たちが驚いて振り返る。
 俺は久々に腹を抱えて笑った。




 恐らく、俺が成田に引導を渡すのは、きっともっと、ずっとずっと後になるだろう。









<END>




 













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 俺の秘密基地である体育館側の屋上で寝そべっていると、誰か走ってくる気配がして、やばいと思って咄嗟に壁際に身を潜めた。
 大きく入り口の扉を開け放って、派手に登場したその人物は、そのまま振り返りもせず一直線に走って、真正面のフェンスに激突した。
 鼻の頭を押さえてしばらく痛みに耐えた後、そいつはおもむろにフェンスによじ登り始めた。そして危うげに、フェンスの向こうへ降り立った。
 どうやら自殺志願者らしい。
 俺がここで過ごすようになって、記念すべき二人目だ。
 俺はしばらく見守るべきか悩んだが、面倒だったので、そっと立ち去ることにした。
 が、思わぬことにケータイを地面に落としてしまい、カツンというコンクリに固形がぶつかる嫌な音が屋上に響いた。そのお陰で、フェンスの向こうにいた奴が、大袈裟に肩を震わせて驚いたようにこちらを振り返った。
 知らない奴だ。見たことない。でも上靴が青だから、同学年か。
 そいつが俺の存在に今気づいたことに逡巡している間に、俺は先に言ってやった。
「わりぃな邪魔して。すぐ立ち去るからさ、俺のことは気にしないで。どうぞ続けて」
 俺が屋上扉のノブを掴むと、震える声が聞こえた。
「と、止めないのか?」
「え?止めないと駄目?」
 俺の切り返しに、そいつは口ごもった。が、すぐにさっきよりは声を張って言った。
「だ、だって!後悔しないか?オレ、死ぬんだぞ!?あんたの枕元に立ったりするかもしれないぞ!!呪っちゃうかもしれないぞ!!」
「なんで俺が呪われなきゃなんないんだよ。他人のお前に」
「あ、あのとき止めてくれなかった、とか、逆恨みして…」
「え?止めて欲しいの?」
「え、あ、いや…」
「じゃあ5千円でいいよ」
 俺が右手を出すと、そいつはきょとんとした。
 年齢の割に幼い顔立ちで小柄。大方、クラスで苛められてたのかもしれないな。運動の方も鈍そうだし。
「え?何料金…?」
「自殺食い止め料」
「き、聞いたことないんですけど」
「止めてもらいたきゃ、金払いな。ただで止めてやるほど俺は善人じゃねえんだよ」
「い、今手持ち千円しか…。昨日取られちゃったから…」
「ち、シケてんな。千円で何しろっつんだよ今時」
「カラオケとか行きなよ…。平日だったら学生安いし、フリータイムだったら5〜6時間いけるよ」
「詳しいなお前」
「一人でよく行く」
「一人でカラオケ行くのか!?寂しい奴だな!」
「…友達いないから」
「二人でならいくら?」
「へ?」
「千円で二人なら何時間くらいいける?」
「さ、さあ…。店に寄ると思うけど」
「よし、んじゃ確かめてみよう」
 俺が手を打つと、そいつが眉を寄せた。俺は人差し指を二回曲げてそいつを招く。
「行くぞ」
「…オレと?」
「他に誰がいる?」




 そいつは無言で、地上を見下ろした。それから、ゆっくり深呼吸してフェンスを登り始めた。


 数ヶ月前、同じ様にして俺を止めてくれた一コ上の奴は、この間卒業してった。


 それ以来、俺はずっとここにいた。


 フェンスから降り立ったそいつは、改めて照れた様子で俺を見つめた。




「オレはニ年五組なんだけど、君は――」








<END>




 

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「いいですか、そこ、動かないでくださいよ!俺がいいって言うまで、絶っっ対、ですよ!?」
「…わかった。わかったから早く行け。寒いんだよ。あと、十五秒で戻らないとマジでシャッター下ろすから」
「店長の鬼!!悪魔!!」




 17歳の男子高校生が、うわ〜んと情けない泣き声を上げて、恐る恐る暗い倉庫内へと進んでゆく。そのでかい背中を僕は溜息を吐いて見送った。




 0時に閉店して、レジ締めやら何やらで店のシャッターを下ろした直後、背後から原付の激しい急ブレーキ音がした。驚いて振り返ると、23時頃に帰宅したはずのアルバイトの渚が、慌てた様子でヘルメットを着けたまま、シャッターの鍵を握りしめる僕に詰め寄った。
「店長!閉めちゃったんですか!?今、閉めたんですね!?」
「見りゃわかるだろ」
「うわ〜、困ります!開けてください!俺、忘れものしたんです!」
「明日でいいじゃん」
「良くないです!ケータイなんです、うっかり更衣室のロッカーんとこに置きっ放しに」
「一日くらい我慢しろよ」
「何言ってるんですか!俺男子高校生ですよ!?ケータイないと困ります!授業中、何してればいいんすか!?」
「授業に集中しろよ」
「あんた教師ですか!?」
「うるせえなあ。僕はお前と違って明日も10時には店開けなきゃいけないんだぞ。早く帰りたいんだ。0時以降は残業つかないんだぞ」
「知りませんよ、いいから開けてください」
「そんな大事なもん、忘れんなよな」
 渋々、シャッターの鍵を開けてやったのだが、渚は何故だか中に入ろうとしない。訝しげに奴を仰ぐと、彼は真っ暗な店内をじっと見据えたまま、僕の服の裾を引っ張る。
「…なんだよ。早く行けよ。寒いんだよ早く帰りたいんだよ」
「俺…暗所恐怖症なんです…電気、点けてください」
「省エネキャンペーン中なんだよ。最近色々上がうるせえんだよ。そんなに嫌なら携帯を貸してやる。その明かりを頼りにしろ」
「ケータイの明かりなんぞでこの俺の恐怖が拭い去れるとでも!?」
「うるせえな。逆ギレかよ」
 深夜、店の前でぎゃあぎゃあ騒ぐのは問題がある。僕は渋々店内に侵入した。手探りでスイッチを押す。が、点かない。
「あれ?」
「ど、どうしたんですか?」
 店の入り口で震えたまま、渚が身長にそぐわぬか細い声を掛けてきた。
「点かない電気」
「え!?マジですか!?何故に!?…はっ!!もしや、呪い!?」
 ひいぃっと大袈裟に腰を抜かす男子高校生に、僕は冷ややかな目線をくれてやった。
「何の、誰の呪いだ?馬鹿馬鹿しい」
「ピザ食い過ぎて糖尿病になって死んじゃった人の霊とか」
「ピザ食い過ぎて糖尿病になんのか?」
「配達途中で事故って若くして亡くなったアルバイトの霊とか」
「うちの店舗で人身事故を起こした覚えは一度もないが?」
「チーズを運搬する途中で事故って亡くなったトラック運転手の霊とか」
「そりゃ呪う場所間違ってるだろ。何でうちの店を呪うんだよ?」
「余りの電話の繋がらなさにキレた客が文句を言いにこの店まで来ようとした途中で車に轢かれて死んじゃった人の霊とか」
「いや、ねえから!!いい加減にしろ!!つーか、どっからわき出てくるんだよその妄想の数々は!?」
「だって、徳川さんが、この店は色々呪われたエピソードが満載だよって…」
「アホかあいつは!!てかお前もあっさり信じてんじゃねえよ鬱陶しい!!」
 遊びたい放題大学生アルバイトの冗談を真に受けた17歳を叱り付けると、僕はふと、側にあった郵便受けに目をやった。中にチラシが入っている。何枚か溜まっている。店に持って入るのを忘れていたらしい。その内の一枚に、正解が記されていた。
「あ」
「何ですか?」
 僕の声に、ようやく渚が立ち上がった。彼にそのチラシを手渡す。
「今日の0時半から1時まで30分間、電気工事するってさ。その間停電しますって書いてある」
 渚が腕時計を見つめた。只今の時刻、0時37分。
「ニ、ニアミス……っ!!」
 渚が再び撃沈した。
「もう観念してさっさと取ってこいよ。ロッカーなんて二十秒もありゃ行けるだろ」
「でも暗いですよ入り口から遠いですよ…。あ、俺が取りに行ってる間に店長帰ったりしませんよね!?」
「今すぐ行かねえと帰るぞ」
 低音で脅すと、ようやく観念した渚が激しく肩を落としてから言った。
「わかりました、行きますよ。行きゃいいんでしょ!?」
「何キレてんだよ。だから明日でもいいじゃん、携帯なんて。あ、もしや彼女から電話がくるからか」
「いませんよ彼女なんて!!」
 きいぃっと即答した渚が、さっきより苛々した様子で僕に食ってかかる。
「店長!俺のことそんな軟派な感じで見てたんですか!?俺すっごいピュアで一途だと有名なのに!しかも童貞なのに!」
「知らないっつのお前の事情なんて!しかもいらんことまでカミングアウトしてんなよ!!」
「もう行きます!店長の前で男を見せます!」
「早く行け」
 真冬の夜中に店前で延々と漫才をする趣味はない。
「いいですか、そこ、動かないでくださいよ!俺がいいって言うまで、絶っっ対、ですよ!?」
「…わかった。わかったから早く行け。寒いんだよ。あと、十五秒で戻らないとマジでシャッター下ろすから」
「店長の鬼!!悪魔!!」
 僕は渚の尻を蹴った。





 十五秒かかるどころか、十秒切って渚が店から飛び出してきた。猛ダッシュして取ってきたらしい。息が上がって、右肩をぶつけたらしく痛そうに押さえて戻ってきた。
「どこの戦場の帰還兵だお前は」
 というかそんな数秒で帰ってこれるのなら、先程の無駄な十数分のやりとりを返してほしい。
「良かった〜。居ましたよ、ケータイ」
「勝手に歩き出しはしないだろ。いいな、じゃあ閉めるぞ」
 ようやく帰れる。渚を店内から追い出し、重いシャッターを閉めると、渚が問うてきた。
「店長、今日単車じゃないんですか」
「今ちょっと修理に出してるから。しばらく歩き」
 シャッターの鍵を掛ける。
「え、夜道危なくないですか!?俺送りましょうか!?」
「平気です。もう24ですから。じゃあな、お前こそ気をつけて帰れよ未成年」
 原付に跨る渚に背を向けて帰ろうとすると、唐突に手首を掴まれた。ぎょっとして振り返ると、原付から降りた渚が、僕を見下ろしていた。いつになく真剣な表情に戸惑う。
「な、なんだよ。また忘れ物か?」
「いや、その…」
「暗いから一人で帰れないとか言うんじゃないだろうな?僕はお前の保護者じゃないぞ」
「ち、違います!その…」
 はっきり言わない渚に苛々する。
「なに?」
「て、店長手冷たいですよね!」
「心が温かいからに決まってんだろ」
「体冷えてますよね!?きゅ、休憩していきませんか!?」
 往年のやりとりをスルーされた代わりに飛び出した発言に、僕は目を丸くした。渚を見ると、妙に顔が赤い、気がする。
「……何を言ってるんだお前は?」
 僕の冷ややかな声に、渚が我に返ったように慌てる。
「あ、嘘ですごめんなさい!何でもないですっ!忘れてください!」
「忘れていいのか」
「いや…」
 もごもごと口ごもる。何ともはっきりしない奴だ。
「よし、忘れた」
「ああああ…」
 渚ががっくりと肩を落とした。その余りに激しい落胆ぶりに、笑いがこみ上げてきた。
「…仕方ないな。代わりに家まで送られてやる。カワイソウだから」
 僕の台詞に、渚が光速で顔を上げた。背後に花が舞っているのが肉眼で確認できそうなくらい明るい表情を浮かべている。
「はいっ!じゃあ謹んで送らせて頂きます!あ、店長、手寒くないですか!?何なら手を繋いで差し上げましょうか!?」
 ぱっと右手を差し出す渚の背中に、膝をくれてやった。
「調子に乗るな」



 痛そうに背中を擦りながら、原付を押した渚が笑ってついてくる。



 後で聞いた話だが、どうやら渚の携帯は元々ロッカーになかったらしい。今日から一週間、僕が単車を修理に出していると徳川から聞いた渚が、口実にしたのだった。
 事実を知った時、僕は渚を三発くらい蹴った。





 一体どの辺りがピュアなのか、教えて欲しいものである。










<END>

 













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 少し遠出して観劇した帰りの電車内で、彼と再会した。




 バイトも休んで、制服のまま劇場まで直行した。狭い小劇場は満席だったが、期待していたよりも面白くなかった。その劇団にとっては初舞台で初日であったためか、役者も噛みまくりで台詞はとちるし、照明も下手だし、金返せと言ってやろうかと思ったが、そこは紳士的に会場を後にした。

 その帰りの電車内のことである。ラッシュも過ぎた時間帯の為か、車内は席が空いていて、オレはすかさず車両の一番端に座った。車内は比較的静かで、真ん中の方で並んで座るカップルも無言で、その正面に座るサラリーマンのおっさんもうつらうつらしている。
 急行の停まる駅に着いた時に、彼が乗り込んできた。
 明らかに酔った感じの今時の若い兄ちゃん。まさか、その人がオレに決定打を与えた人物だとは、夢にも思ってなかった。カップルの女性が、嫌そうに眉を顰めるのを見て、オレも絡まれるのは嫌だと俯いていたら、なんとそいつはよりにもよってオレの隣に座った。他にも席空いているのに。何故よりにもよって、席の狭いここをチョイスしたのか。答えは簡単、一番ドアに近いからなんだけども。
 関わらないでおこうと固く決心した直後、その若者が突然青い顔で口元を押さえた。嫌な予感。ちらりと横目で盗み見ると、何度も嘔吐いている。やばい、かなりやばいぞこの人。仕方なく声を掛けてみる。
「だ、大丈夫ですか?次で降りた方が…」
「…いや、だいじょう…」
「きゃあああ!!」
 叫んだのはカップルの女性。叫びたいのはオレの方。
 奴は「大丈夫」と言い切る前に、見事にオレの制服の上に吐き散らしてくれたのだった。



「マジで最悪だ」 
 オレは泣く泣く次の駅で降りて公衆便所に走った。手洗場で汚れた制服を洗う。チクショウ、なんでオレがこんな目に。ついてない。しかも濡れた制服着て今から帰るのかオレは。今冬なんですけど。
「ちょっとお兄さん、しっかり立って!」
 冷水でブレザーを洗っていると、入り口から駅員らしき声が聞こえてきた。振り返ると、さっきの酔っ払い兄ちゃんを連れた駅員が、個室の扉を開けて、その酔っ払いを押し込んでいる。
「ここで全部吐くんだよ?すっきりしたら出ておいで。他にも酔っ払い出たらしいから。俺そっち行くからね。出てきたら駅長室寄りなよ?」
 そう言い残して無責任にも駅員はさっさと去って行った。師走は駅員も走るらしい。大変だな。
 呑気にそう思っていると、個室のドアを開けっぱなしの兄ちゃんが、便器に向かって嘔吐き続けていた。
「かっこわりいなぁ」
 こういうオトナにはならないでおこう。固く心に誓っていると、トイレの中から情けない声がした。
「…駅員さん、もう、だいじょうぶ…。だから、こっから出して〜」
「大丈夫じゃねえじゃん」
 一人でトイレから出れないのかこの人は。
 オレは溜息を吐いて、とりあえずブレザーを縁に引っ掛けて中を覗いた。
 洋式便座に座った男が、俯いてしゃっくりを繰り返している。着ているコートの前は汚れたままで、「出して〜」と何度も繰り返す。
 うわ、マジで情けな、この人。
「…しょうがねえな…」
 汚れついでだ。オレは個室に入ってそいつを支えて立たせた。
「ほら、しっかり掴まれ。とりあえず、コート洗うぞ。後で駄目んなったってコート代請求してもぜってー受け付けねえからな」
「…ありがとー、君は、いいひとだ…」
「よし、もっと褒めろ。今時、無料でここまで世話してやる高校生、関西中探しても滅多にいねえからな。感謝しろ」
「するする、ありがとー…好きになりそう」
「残念ながらここは男子トイレだ。そしてオレは男だ」
「ああ、残念…」
 苦労してコートを引っぺがして、汚れた部分をトイレットペーパーで拭った。流石に他人様のコートを水に直で漬けるのは抵抗があった。その間、酔っ払いの兄ちゃんは、洗面台に寄りかかって何度も口を濯いでいた。いや、寧ろ蛇口から直接水を飲んでいた。
「…まあこんなもんだろ」
 とりあえず見た目の悲惨さは払拭してみた。改めてそいつにコートを着せてやる。その時、そいつの財布が落ちた。慌てて拾い上げる。免許証が目に入る。
「……伊部、直幸…」
 マトモな顔写真と、その名前を見た途端、オレは卒倒しそうになった。いや、事実、トイレの壁に寄りかかって、肩を強打した。酔っ払いの情けないオトナ代表の顔をまじまじと見つめる。


 この人が、オレの方向性を定めたあの、伊部さん?


 「打ちひしがれる」ってきっと、こういう時に使う言葉なんだと、今身を持って知った16の冬。
「なにやってんだよ、あんた…」
 なんだか、怒りがこみ上げてきた。情けなさ過ぎて涙も出そうだ。
 将来、オレを撮るって豪語した奴が、駅の便所で吐いてるなんて、これ以上アンハッピーなことはないと思う。
「君、あのさぁ、俺を、駅長室まで…連れてってくれない…?」
 ふらふらの足取りで、トイレを出て行こうとする伊部さんを、オレは捕まえた。
「待った」
「ん?なに?」
「オレが送ってってやる。あんたの家まで。駅員には言っておくから、ちょっと待ってろ」
「え?本当に?ありがとーございまーす」
「その代わり、家泊めろ」
「いいよーおいでー」
 あっさり快諾した伊部さんをホームのベンチに置いて、オレはさっきの駅員にその旨を告げた。
 彼を送ってやるのには勿論、目的がある。 
 確認するためだ。
 伊部さんの家に行けば、この人が今どんな生活を送っているか分かる。 
 オレが知らないだけで、本当はもしかしたらすんごい有名な監督で名が通ってるのかもしれないし、だとしたらラッキーだ。有名な劇団とかに紹介してくれるかもしれない。
 まあ、駄目駄目な生活送ってたら…
 …うん、それはその時考えよう。
 とりあえず、確認。
 オレはがっつり下心を抱えて、伊部さん家に行くことにしたのだ。






 駅前でタクシー捕まえて、伊部さんの住むマンションに到着した。肩を貸してやって、3階まで運ぶ。全然駄目じゃんこの人。足元危うすぎる。よくぞここまで酔えるものだ。
 …なんか、嫌なことがあったのかな。
 304号室の前で、伊部さんが鍵を取り出した。しかし、手元がおぼつかず、鍵を何度も落とす。苛々してひったくる。
「貸して」
 すんなり鍵を開けると、伊部さんがオレの頭を無遠慮に撫でてきた。
「お利口、お利口〜」
「気安く触るな、子ども扱いすんな」
「君、高校生〜?しっかりしてるな〜」
「あんたがしっかりしなさすぎなんだよっ!ほら、開いたから」
「は〜い、おっ邪魔しま〜す!」
「いや、あんたの家だから!」
 オレが突っ込むと同時に、伊部さんが玄関にダイブした。オレも後に続いた。人を運ぶのって結構体力使うな。しかも制服濡れて寒いし。
 オレは玄関に座り込んでスニーカーを脱いだ。伊部さんは隣でうつ伏せになったまま、ぴくりともしない。死んでしまったのかもしれない。それならそれでいい。世界が少し平和になるんじゃなかろうか。
「ねえ、ちょっと風呂借りていい?オレあんたのお陰で制服濡れたんだし、それくらい構わない…」
 「よな?」と言い切ることができなかった。
 凄い力で二の腕を掴まれ、フローリングの床に、後頭部を強か打ちつけて眼前に火花が散る。
「……ってぇ…」
 余りの痛みに、目の端に生理的な涙を浮かべる。そして唐突に太腿の上に重みを感じて、慌てて顔を上げると、そこには目を座らせた伊部さんがオレの上に跨ってこちらを見下ろしていた。
 ぞくっと背筋に悪寒が走る。見たことある、この目。
 本能が全身に向けて超特急で伝達する。

 ――やばいから逃げろ。

 二年前も、こんな目で見下ろされた。あの時は、優しそうな大学生だった。奴はオレを部屋に招きいれた途端、押し倒しやがったのだ。だけどあの時は、たまたま隣のアパートが火事になって、消防車やら野次馬が集まってきて、間一髪オレは危機を脱した。
 けど、今回は…。
「ちょ、退け!!なんだよ、なんでオレの上に乗ってんだよ!?」
 太腿の上に乗られているので、足は動かない。自由な両手を使って、オレは必死で抵抗した。
 畜生、屈辱だ。人生で2回も男に押し倒されるなんて。笑い話にもなりゃしないっ。
「退けって!!」
 声を張ると、大きな左手で口元を塞がれた。右手でネクタイを解かれる。そのネクタイを口の中に突っ込まれる。
「んんーっ!!!」
 危機感が最大まで跳ね上がる。振り切りそうだ。最悪。なんで介抱してやったのに、こんな目に遭うんだよ!
 しかも…、なんで、あんたにヤラれなきゃなんないんだよっ!

 抵抗も効き目なく、無理やり濡れたブレザーとシャツが脱がされる。素肌に冷気と冷たいフローリングが直接触れて粟立つのが分かった。更に熱い唇と舌が押し付けられて悪寒が止まらない。
「んーっ!」
 抵抗は絶対止めない。オレは自由の利く両手で、真上の犯罪者を退かせようと必死で爪を立てたり叩いたり殴ったりした。が、効果ゼロ。酔っているためか、痛覚が麻痺しているのかもしれない。そのまま、両手も押さえ込まれてしまった。
 胸元を執拗に舐められる。舌で突かれ転がされて吸われて甘く噛まれる。頭が熱い。変になりそう、狂いそうだ。男に胸吸われるなんて、最高の笑い話だ。いや、笑えねえのか。
「ふ、う…っ」
「…かわいい」
 場違いな台詞に、オレは恐る恐る目を奴に向けた。オレの顔を覗き込むように、伊部さんが顔を近づける。
「可愛いな、お前…」
「!!」
 顔を近づけて何をするのかと思いきや、自らオレの口ん中に詰めたネクタイの端を噛むと、そのままオレの口の中から引き抜いた。そのままそれを、床に落とす。 
 伊部さんが、オレの顔を間近で覗き込む。
「…ちひろ…」
「え…」


 ちひろって、誰?



 問う前に、口付けられた。
 オレの初キス。


 オレはこうして、オレのほとんどをこの男に奪われることとなる。
















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 しばらく気を失っていたらしい。気がつくと、玄関先の冷たいフローリングの上じゃなくて、柔らかくて暖かいベッドの中に寝かされていた。しかし、まだ体中が重くて熱い。首筋が熱い。どうやら舐められているらしい。
 …なんだ。場所変えただけかよ。つか、まだやるのかよ。
 背中と腰に熱い手が張り付く。擦るように撫でられる。この人ホモだったのかよ。益々最悪だ。良いところが全く見つけられないんですけど。名前間違えやがるし。


 ぼんやりした頭で、部屋中に視線を巡らせる。壁際の天井近くまで届く高さの棚にはDVDばっか並んでる。有名なやつから聞いたことのないタイトルまで。貸し業できそうなくらいの膨大な量。こんなにもよく集めたものだ。その隣の本棚にはよく分からない小難しい本や雑誌が並んでいる。妙に外国語タイトルが多い。マジで読んでるのかこれ全部。絶対絵と写真しか見てないと思うんだけど。壁のカレンダーには、空欄にぎっしりなにか書いてあるが、文字が汚すぎて読めない。場所と時間を書いているようだ。…あれ。うちの店の名前がある。しかし「工場」ってなんだ?…間違っても、撮影場所とかではなさそうだ。


 ――結論。ハズレだ。
 間違っても、有名な監督とかなってねえよ絶対。



 腰に鈍痛が走る。オレは思わず悲鳴を上げた。さっき気を失ってたお陰で忘れてた痛みがよみがえる。
「いっ、てえぇ…!」
 伊部さんの背中に思い切り爪を立てて呻く。拷問だこれ。5歳の時に自転車で転んで左腕を捻挫したことより、10歳の時ブランコから落ちて地面に叩きつけられたことより、中1の時に受けた予防接種より、今まででいちばん痛い。
 オレの悲痛を微塵も感じていないらしい呑気な奴は、構わず腰を動かしている。ムカつく。この変態め。ちょっとはオレの辛さを汲み取れよ馬鹿!
 力では敵わないので、とりあえず訴えて萎えさせる作戦に出てみた。揺さぶられながら、真上の伊部さんを睨みつける。
「あッ、痛い、から…、早く退け…っ」
 ぐっと力を込めて伊部さんの両肩に爪を立てるも、全く効かない。胸を叩いて押し返す。
「退け…ってば!てか、抜け!…揺する、な…ッ」
 玄関先での行為の残滓が潤滑油代わりになって抽挿を淀みなくさせている。聞きたくない卑猥で嫌な音が足元から上がってくる。その音が立つ度に、貧弱なベッドが軋む。


 嫌だ。
 嫌だ。
 最悪だ。
 早く終われ。
 いつまでも粘ってんじゃねえ。
 堪えなくていいからさっさと出せ。
 一刻も早くオレの中から出てってくれ――


「!?」
 ぎょっとして、思わず肘で支えて上半身を起こした。
 伊部さんが、すっかり萎えていたオレ自身を右手で擦り出したのだ。
「ちょっと、やめ――」
「俺ばっかじゃ…不公平だもんな」
 妙に色っぽい笑顔を浮かべて、絶妙に右手を動かす。
 公平さとかいらないっての!退いてくれたら一番いいのに!
「やだ…っ、いや…!」
 自分の喉から出た声に、衝撃を受ける。なんだ、今の。掠れて甘さの含まれたような声に気色悪さを覚える。自己嫌悪に陥っていると、伊部さんが更にオレを追い込もうとする。オレは必死で逃れようと躍起になった。これ以上、情けない姿をオレが見たくない。
「やだやだ!いやだっ!」
「…我慢すんな。な?いいから出せ。気持ち良いだろ?」
 耳元で囁かれる甘い声に、死にそうになる。耳の穴に舌を差し込まれる。聴覚まで犯される。息と声が堪え切れずに跳ねる。
 無理だ。我慢できない。だってオレやったことない。人にされたことない。全部初めてなんだぞ。なんて無茶させるんだこの人は。今日だけじゃない。5年前から、オレに高いハードル与えっ放しで、自分は何もしやしない。口だけの最低な男に、オレは捕まってしまった。ついてない。本気でついてない。いいことなんかありゃしねえ。この人に、騙されっ放しじゃんオレ。なんでこんな奴に――。

 

「―――っっ!!」
 下腹部が熱い。腹の上に散ったのが分かった。心臓が跳ねる。どっと鉛のような疲労感が全身を這う。息が浅い。
「いっぱい出たな」
 オレの腹の上の情けなさの固まりを指で掬うと、あっさり舐め取る。残りも掬うと、オレの唇に押し付けた。
「お前のだろ」
 くそ。終わったら覚えてろ。殺してやる。なるべく苦しむ方法で。
 頑なに閉ざしていた口を、強引に開けさせられた。舌に塗りこまれる。不味い。食べ物じゃないし。
 口の中に指を突っ込まれたまま、腰の動きが再開する。まだいってなかったのか。指を舐めさせられているために、自分の口から不明瞭な声が洩れる。伊部さんはそれも楽しんでいるようだった。指で舌をつかまれて扱かれる。唾液が零れてもお構いなしだった。それも舐め取られた。
 数度、激しく打ち付けられた後、ようやく終わった。
 地上で最も地獄に近かったような気がした。
 よかった。終わってよかった。


 ぐったりした様子の伊部さんがオレの隣に仰向けになって呼吸を整えている。オレは何となくその横顔を見つめた。そして今頃気づいた。
 …さっき言ってたちひろさんって、もしかして彼女?
 振られて、それでこんなになるまで飲んでたとか?
 いや、だったらオレ、めちゃくちゃ可哀相じゃないか?酔った勢いで彼女の代わりにやられたなんて!
 そう思うと段々ムカついてきた。元からムカついてたけど、ムカつき度数が増してきた。何、この自分勝手さ!自己中にも程があるっつーの!!
「お前さ」
 一人で立腹していると、隣で低い声がした。オレは彼に背を向けて寝た振りをすることにした。構わずに伊部さんが声を掛けてくる。
「お前の名前、聞いてなかった」
 …二回もやった後に聞くなよ。もういいだろ、名前なんて。
 無視していると、肩を掴まれた。そのままぐいっと振り向かされる。目が合う。思ったよりも優しい目に、拍子抜けするが、オレは睨んだまま答えた。
「ちひろ」
 その回答に、伊部さんが両目を見開く。
「本当に?」
 面倒なので否定せずに、頷く。
「マジかよ…」
 顔を両手で覆って沈黙する。なんかへこんでるみたいだ。ざまーみろ。心の中で舌を出していると、唐突に体を引き寄せられた。
「な、なに!?」
「もう一回」
「ふ、ふざけんな!!どんだけ元気なんだよ!?」
 慌てて逃れようとすると、項に唇を押し付けられた。
「これもなんかの縁だろ。気の済むまでやる」
「最低!!この犯罪者!!」
「気にするな。俺朝になったキレイさっぱり忘れるタイプだから」
「尚のこと性質が悪いわ!!」
 どうやらオレの選択は悉く間違う運命にあるらしい。今のも不正解。
 そのまま伊部さんは、オレのことを「ちひろ」と呼んで3ターン目に突入した。





 …どうしてくれよう。
 オレは痛みのお陰で眠れず、隣ですやすやと安眠を貪る犯罪者を睨み付けたまま、事後処理について練っていた。
 不本意ながら、3ターン目で2回もいかされた。悔しさが倍増する。果たしてどうやってこの仇を討つべきか。何が一番効果的か。
 この人は朝になったらキレイさっぱり忘れると言った。ということは、朝、この状態を、例のちひろさんに見せるというのはどうだろう?同時にオレがこの人に乱暴されたことを涙ながらに訴えれば、効果覿面じゃないか。
 素晴らしい作戦を思い立ったオレは、痛む体を引き摺って、伊部さんの携帯電話を探した。玄関に脱ぎっぱなしのコートのポケットに入っていた。というか、玄関にはオレの制服も散らばっていた。床にはそこでの痕跡も残っていて、無意識に赤面してしまう。
 …ここでやられたんだよな、オレ…。初体験が男って…。
 項垂れてしばらく際限なく落ちてから、洗面所から濡らしたタオルを失敬して後始末する。自分のゴーカン現場の後始末までするなんて、どこまでいい奴なんだろうオレ。溜息を吐き、汚れたタオルを洗濯機に放り込んでから、寝室へ戻る。
 伊部さんの携帯を勝手に開いてアドレスを見る。「ちひろ」は一人しか居なかった。
「松浦千博」
 きっとこれだろう。念のため、着信履歴とメール受信歴を確認する。
「あれ?」
 履歴がない。松浦千博の履歴がまったくなかった。ラブラブな受信メールも送信メールも。ファイルも全部見てみたが、彼女っぽい写真なども一枚もなかった。オレを襲ったのだから、もしかしたら男かもしれないと思い直して再確認してみたが、やはり恋人らしき存在は携帯から確認することが出来なかった。
 ということはだ。「ちひろ」は手の届かない人物で、連絡の取れない相手だということになる。まずいな。だとしたら、オレの計画は最初の段階でこけてしまったことになる。
 参った。どうしよう。
 携帯を机の上に置いた時だった。ふと、傍の飾られた賞状が目に入った。日付は二年前。第9回学生映画大会金賞。金賞って、一位のことかな?
「タイトル『日常』」
 どんな映画だ。気になるな。探そう。オレは遠慮なく机を漁った。金賞を取ったくらいだ。きっとどこかに大事にしまってあるはず。一番上の引き出しを開けた。意外にも伊部さんは整理整頓が得意らしい。すぐにそれらしき焼き増ししたのであろうDVDが見つかった。起こさぬようこっそりリビングに移動した。
 音を最小限に絞ってテレビをつける。DVDデッキに放り込んで再生。始まった。



 場所は、あの土手だった。 
 主人公は二人の男女。彼らの他愛ない会話だけで話が続く。二人は移動せずにじっと土手に座っているだけなのに、カメラがちょこちょこ動いては、二人をあらゆる角度から撮るので、画的にはあまり飽きない。会話はつまんないけど。
 主人公らが必死で話してるのに、カメラは時々あらぬ方向を向いたりする。しばらくじっと川面を映したり、遠くの広場で野球している子どもらを映したり。しかしその間も男女のどうでもいい会話は聞こえてくる。そして、最後に男主人公がカメラ目線で問う。
「で、お前はどう思う?」
 カメラが、首を傾げたように斜めに男主人公のアップを映して終わり。つまり、カメラも登場人物の一人だったらしく、二人の話を聞いてるようで聞いたなかったというオチ。なるほど。だからカメラが固定されずに色んな場面を映してたのか。
「賞、もらってたんだ…」
 なんだよ。ちょっとは頑張ってるじゃん。
 引き出しの中にあった他のDVDもついでに見てみた。どれも短い作品だけど、いずれもあの土手が登場している。余程のお気に入りポイントらしい。それはそうか。5年前、初監督のときもあそこからのスタートだったんだから。




 映画が完成したら見せてくれるという約束を信じて、オレたちはあの土手で毎日遊んで待った。小学生にとってはかなり長かった一ヶ月後、土手に現われたのは、撮影班内で一番弱そうな脚本担当の兄ちゃんだった。わくわくした様子のオレたちを見て泣きそうな顔で謝り倒してくれた。せっかく撮った映画は、監督の不手際で消してしまったと説明してくれた。かなり楽しみにしていただけに、オレたちは相当落ち込んだ。でもその兄ちゃんが、お詫びにとファミレスでご馳走してくれたので、寛大なオレたちはチャラにしてあげることにしたのだった。結局、監督の伊部さんとその後、会うことはなかった。
 でも、この土手を撮ってたってことは、あそこで頑張ってたんだ。オレたちが気づかない間に。
 


 DVDを片付けて寝室に戻る。伊部さんがベッドで安らかな寝息を立てている。その寝顔を眺めて思う。
 高校に入っても、オレは演劇部は覗かなかった。劇団に入る金を貯めるためだと口実を作ってバイトに明け暮れた。金が入れば、気になる劇場に足を運んだ。ただそれだけ。たまに徳川さんの知り合いに頼んで稽古にお邪魔させてもらったりする程度。夢というよりも、趣味に近い。
 何にもしないで口だけなのはオレの方だ。
 オレは自分を持っていない。何をしたらいいのかよく分からない。
 5年前、伊部さんに会った頃、父親がリストラの対象になってることで、家の中がギスギスしていた。それが嫌で外でばかり遊んでいたら母親に叱られ、家にいれば父親に外で遊べと怒鳴られた。友人であるいっちゃんたちは励ましてくれたが、彼らは明日を心配する必要もない。オレは彼らと遊ぶときですら卑屈になっていた。
 そんなとき、映画を撮っている伊部さんたちが現われた。オレたちを映画に誘ってくれた。オレに重要な役を与えてくれた。存在感があると教えてくれた。役者をやってみろと、道を指し示してくれた。家では居場所のないオレにも、使い道があるのだと分からせてくれた。
 だから、あんたが泣いて頼み込むようなすげえ役者になってやろうと、あのときは思ってたんだ。
「……もうちょっと、真剣に頑張ろうかな…」
 頬杖をついて呟くと、伊部さんが寝返りを打った。幸せそうに呟く。


「ちひろぉ…」


 思いっきり頬を抓ってやったが起きる気配はない。
「ば〜か」


 まあとりあえず、今んとこは復讐第一。
 思いつく限りの意地悪してやる。そんで泣いて土下座させてやる。オレは高いんだぞってことを思い知らせてやる。
 このまま泣き寝入りなんてごめんだ。
 



 そんで、いつか絶対、ざまあみろあんたの言う通りすっごい役者になってやったぜ文句あるかあんたがオレの才能見っけたんだから責任取れよなって言ってやる。
 何年後になるかは、検討もつかないけど。













 だからさ、もし今も、あんたが頑張ってるんなら、オレも頑張るから。
 負けないで頑張れ。







<END>
 








 

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 子どもの頃、風邪に掛かっていたことに気がつかず、調子に乗って友達と町内を自転車で走り回って遊んだお陰で肺炎になって入院するはめになった。まだ小学校に入る前だったと思う。当時、やんちゃで悪戯好きとして悪名高かった俺は、入院先の病院でも大人しくすることはなく、点滴を引き摺って病院内を徘徊し他の患者らにちょっかいを出しては怒られていた。
 その天罰が下ったのは、退院間近の日。熱も引き、咳も治まってきたというのに、いつまでたっても喉の調子が良くなく、常に痰が絡むような喉のいがらっぽさを母親に訴えていたら、担当医にあっさり言われた。
「治んないよそれは。喉腫れてるのに、あんだけ叫んで暴れちゃ流石にねぇ。かわいそうだけど」
「えええっ!?」
 驚いたのは母親の方で、別室にいた看護師さんがその絶叫に驚いてトレイを引っくり返す有様だったという。




 それから十年経った現在、俺は青春真っ盛り、きらきらの高校一年生になった。
 過去を教訓に、俺は至って真面目で優秀な生徒として努めた。幼稚園時代の俺を知る者は、今現在の素敵な感じの俺と擦れ違ってもきっと気づくことはないだろう。余りの変貌振りに、彼らは動揺を押し殺せないだろうと推測される。
 俺は真面目になった。勉強もスポーツも頑張った。そして、そこそこいい学校に入学できた。
 母親は、俺の変身後の姿に、思わずヒーローが装着するような変身ベルトを実は隠し持っているのではないかという幻想的な疑念まで抱いたようだった。実際、ある日学校から帰宅すると、部屋が荒らされていた。泥棒が入ったのかと思ったくらいの見事な荒れっぷりだった。せめて直しとけよと思った。Hな本はそのままだった。それはいっそのこと捨てろよと思った。話が逸れた。とにかく、俺は変わった。
 しかし残念ながら、変わらなかったものがある。それはもう二度と取り返せないらしい。


 声だ。


 十年前、俺が暴れてやんちゃをしまくった罰は続いていた。


 小さい頃は「大地くんの声、きれいね〜。声だけは」と、よく褒められたものだ。幼稚園の遊戯会などでは先生方お母様方から絶賛され、公園や遊園地で悪戯をしても、声の可愛らしさで許されたり、声によってかなり得した人生を送っていたのだ。そんな澄んだ可愛らしい甲高い声を持って生まれたのにも関わらず、俺はそれを自ら棒に振った。
 今の俺の声を聞いたら、百人中百人が腰を抜かす。俺からではなく、違う方向から聞こえたのかと、周囲を見回す奴もいる。しかし、残念ながら、紛れもなく俺から発せられた声なのだ。
 ではその声を紹介しよう。…と言っても、皆様には文章でしか伝えられないのが残念である。是非聞いて頂いて卒倒していただきたいのに。非常に残念だが、想像して頂くしかあるまい。
 まず、紙やすりを想像していただこう。それを机の上に広げる。利き手に定規を持つ。目盛のついている方を紙やすりに当てて擦る。ざらざらしますね。その音を立てたまま、声の低い男性歌手が無理やり高音を出そうと頑張っている歌声を掠れさせたものを合わせてください。更にそこへ、痛い咳を思い出して加えてください。そこで鼻を摘まんでください。
 そんな感じの音の三倍くらい聞き取り難くて、聞くと非常に不快になる声です。ご理解頂けたでしょうか?
 この声のお陰で、俺は今まで本読みを当てられたことがない。発表するときはすべて黒板へ記入する。友人と話すときも筆談だ。お陰でクラスメイトからは、無口な優等生と思われている。
 更に悲劇は重なる。俺は残念ながらそこそこルックスも良かったらしい。高校入学と同時に、女子生徒数名から愛の告白を受けてしまった。困り果てた挙句、ノートの切れ端に返答をしたら、声が聞きたいと言われた。仕方なく「気絶しない?」と聞いたら、気絶されてしまった。三人中二人が気絶して、一人は号泣して去って行った。
 困った。非常に困ったものである。



 更に困ったことがある。高校には、選択科目というものがある。入学時に、美術、書道、音楽の三教科の中から一つを選ばされる。第一希望から、第二、第三希望までを記入するようになっていた。勿論俺は、書道、美術、音楽の順で希望した。
 が、書き方を間違えたのだ。通常、希望順になっていると思うじゃないか。俺は希望順に上から書いて提出した。しかし、神の悪戯は終わりを知らなかったようだ。
 この高校では、一番下の欄が、第一希望となっていた。
 


 そう、俺は音楽を選択してしまったのだ。
 今後の俺の人生に、全く役立ちそうにない教科。音楽を。







「高坂、教科書見せて〜!忘れたっ」
 俺の鬼門である音楽室に憂鬱な気分で足を踏み入れた途端、特徴あるハスキーボイスと共に、背後から突き飛ばされた。思わずつんのめってこけると、後ろで俺を押した犯人が爆笑していた。思わず睨みつける。
 この背の低い人は、隣の組の浅賀透という、何かと俺にちょっかいをかけてくるとても嫌な人物だ。どうやら俺の声が聞きたいらしい。何かとサプライズを仕掛けてくるので要注意しなければならない。
 俺は彼を無視して、隅の方の席を取った。すると浅賀が近寄ってきた。俺の隣の席に座っていた奴とわざわざ席を交換してもらっている。嫌な奴だ。そこまでして俺のダミ声を聞きたいというのか。卒倒しても知らないぞ。俺は教科書を浅賀に押し付けた。そのまま席を立って教室を出る。どうせ今日は課題曲のパート選別だったのだ。俺は参加する気がない。俺は合唱や歌以外の音楽の授業は快く受けるが、声を出すものは自主的に避けている。音楽の担当教諭にもこのことは伝えてあるが、やはり彼女は納得しておらず、浅賀と同様何かと気を遣ってくるので正直鬱陶しかった。
 

 音楽室を出て屋上へ上がった。フェンスに近寄って額をぶつける。真下の運動場では、一年生が足並み揃えてグラウンドを走っている。
 俺はカラオケに行ったことがない。ボーリングをしても、皆と同じように歓声を上げたりできない。中学の卒業式も、みんなと同じように声を上げて号泣できなかった。
 この声とは、一生付き合っていかなきゃならないのに、俺はこの声が嫌いだった。みんなが俺の声を聞いて怯えたり嫌な表情をするのが分かっていたから、それが怖くて、声を出したくても出せなくなっていた。



 音楽室から課題曲が聞こえてきた。Let It Beかよ。
 しばらくフェンス越しに一年生のランニングを見ながら聞いていると、その歌が近づいてきた。


 ハスキーで綺麗な心地よい歌声だ。
 俺とはまるで正反対だ。聞き惚れてしまいそうな声。



 思わず振り返ると、教科書を持った浅賀が、歌詞が分からないのか誤魔化したような曖昧な鼻歌交じりで俺の後ろに立っていた。 
「はい、教科書忘れてたよ」
 手渡される。俺は黙って受け取った。浅賀が俺の横のフェンスに凭れて尋ねてきた。
「なんで歌の授業出ないの?」
 今頃気がついた。歌声だけじゃなく、通常の話し声でも、浅賀は素敵な良い音質の声をしている。ハスキーだけど聞き取り難いことがない。妬ましいくらいだ。
「歌嫌い?」
 俺が黙っていると、浅賀が溜息を吐いた。
「高坂って、喋らないよね。でも、クラスの人とはよく筆談してるよね。でも耳が不自由な訳じゃないみたいだし」 
 まだ俺が黙っていると、浅賀が顔を上げて俺を見つめる。
「あ、もしかして、オレが嫌い?」
 あははと笑って言うので、俺はその通りだというように、神妙に頷いてやった。すると、浅賀の動きが固まった。そのまま笑顔を凍らせて、ゆっくり俯く。
「そう、だったんだ…」
 そのままゆっくり立ち上がる。尻をはたいて、出口へ向かう。
「ごめんな。鬱陶しかったろ、いつも話しかけたりして…悪かったよ」
 足元が重く、危うい。暗い。いつも明るい感じの奴とは違っていて、俺は戸惑った。


 …しまった。傷つけたかな。謝った方がいいかな。わざわざここまで探し出して教科書届けてくれた訳だし。
 

 充分躊躇った後、俺は浅賀の背を追いかけた。
 屋上の入り口付近で腕を掴む。浅賀が驚いたように振り返った。





「ごめん、嘘。教科書、ありがとう」





 久しぶりに発声したので、益々聞き取り難いガラガラ声になった。
 浅賀が大きい目を見開いた。
 ――ああ、やっぱり、幻滅される。


「どういたしまして」


 返ってきたのは、何でもない普通の返答だった。
 今度は俺の方が、浅賀の返答に戸惑っていると、彼がにっかり笑った。
「初めて聞いた高坂の声」

 

 俺が話しているのを聞いて、笑いかけてくれた人は、声を無くして以来初めてだった。


 動揺して腰を抜かすと、浅賀が手を叩いて爆笑してから、俺に手を貸してくれた。
「可笑しい!なんで腰抜かすんだよ!?」
「い、いや、だって……俺の声、変じゃない?」
「変じゃねえよ。オレのがよっぽど変だろ。男のくせに高いし。さっきもソプラノ行けばとかってからかわれるし」
 俺の尻をはたいてから、浅賀が俺の方を見上げた。



「声くらいでお前のこと見損なわねえよ」



 恥かしい話、俺は泣きそうになった。女子に告白されるより何より、人生でいちばん嬉しい言葉を貰った。大袈裟に言えば、人生が変わった一言だ。


 浅賀が笑って俺の背を押す。
「オレずっと、お前といっぱい喋ってみたかったんだよ」



 俺がかけられていた十年の呪いは、隣のクラスの背の低い声の美しい男子が、とうとう解いてくれた。









<END>













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「なんで50階建てビルなんて建てちゃったんでしょうね〜。大地震なんか来たら一巻の終わりですよね。ていうかこんなとこまでレスキュー隊は来てくれるんですかねぇ?
 …あれ?行武さん?どうしたんすか」
「黙ってろ。お前うるさい」
「酷いなぁ。場を和ませようとしているオレの努力を無下にするだなんて」
 口を尖らせて、松嶋が壁際に寄りかかった。体重が偏った所為で、少し揺れた気がした。オレは慌てて彼とは正反対の壁際に寄った。松嶋が首を傾げる。
「あれ?今なんで離れたんですか?」
「今揺れた気がする…!お前、不用意に動くな。もし落ちたらどうする?!」
「落ちませんよ、そう簡単には。オレよく実験しましたから。子どもの頃、マンションのエレベーターの中で、ぴょんぴょん跳ねてみて落ちないかどうか」
「そんな危険な実験するな。そして今このエレベーターでは絶対にするなよ!?」
「しませんよ、そんな子どもみたいな真似。でもあのマンションよりは高性能に作られてると思いますけどねぇ」
 そう言って、革靴の先で床を蹴る。
「蹴るなアホ!!」
 俺が怒鳴ると、松嶋がにやにやと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あれ、もしかして行武さん、怖いんですか〜?あ、高所恐怖症とか?それとも閉鎖恐怖症?」
「今はお前の存在が一番怖い」
「あら、光栄ですねぇ」
 松嶋が笑いながら、スーツの内ポケットを探った。しかし、ん?という表情をしてから、今度は尻ポケットを叩いた。それでも不思議そうな表情をしたまま、スーツの上着を脱いで引っくり返す。
「……何してる」
「いや…、携帯、机の上に忘れてきたみたいで。行武さん持ってますか?借りていいっすか」
「呑気だよな、システム課の奴は。俺なんかメシ食ってるときも便所行ってるときでも風呂のときでも手離さないのに」
「風呂のときもですか」
「いや、それは嘘だ」
「恋人といるときも肌身離さずなんですか?えっちしてる最中に呼び出されたらどうするんですか?放置して仕事行くんですか」
「電源を切ってるから大丈夫だ」
「それ、肌身離さず持ってる意味ないですよね」
「いらないなら返せ」
 手を差し伸べると、松嶋が慌てた様子で首を横に振った。そして俺の携帯を眺めて言う。
「……行武さん」
「なんだ」
 俺はエレベーター入り口のボタン付近でしゃがみ込んだ。もう数分は経ってる気がする。救助はまだなのだろうか。いい加減この口うるさい奴から解放してほしい。
 松嶋が携帯のディスプレイを俺に示して言った。
「電池、切れてますけど」





 数分前。
 昼食後の、長くて眠くなる面倒な会議に向かう途中、俺は自分の机に忘れ物をしたので、48階の会議室から、45階の営業課へ戻るためにこのエレベーターを利用した。三階下りるだけなので、階段でも良かったのだが、会議室からエレベーターに向かう方が近かったのだ。エレベーターを待っていると、丁度休憩を終えたらしい松嶋が、休憩コーナーである自販機の影から長身を覗かせて笑って近づいてきた。
「行武さん、今から会議ですか?あれ、でも戻るんですか?」
「忘れ物したんだよ」
「案外抜けてますね」
「歯に衣着せないなお前は」
「やだなぁ。褒めても何もでませんよ」
「安心しろ。褒めてない」
「オレもいい加減戻ろうかな〜。西永さん怖いし」
「お前二年目にしてサボり癖つけ過ぎだぞ」
「あ、西永さんには黙っててくださいね」

 松嶋は去年入った新入社員で、俺の同期でシステム課主任となった西永の初後輩に当たる。システム課は何故だか新入社員が四年に一度のオリンピック並みのペースでしか投入されず、彼は長い間苦汁を舐めていた。そして去年、ようやく念願の新入社員を得たのだが、それがこの松嶋であった。口が達者で要領の良い彼はすぐに七名しかいないシステム課に溶け込み、上手いことサボったり上手いこと業績を上げたりしているのである。あなどれん奴だと、要領の悪い西永が飲み屋の席で悔しがっていた。営業課である俺とは特に接点がなかったはずなのだが、俺が48階の会議室に来る度に、松嶋がおなじく48階にある休憩コーナーでタバコを燻らせたり缶コーヒーを飲んでいるのを見かけた為、西永に密告ってやった。
「お前の可愛い後輩、さぼってるぞ。会議室横の休憩場所で」
 仕事帰りに飲みに誘って直球を投げると、西永がへらっと人好さげに笑って言った。
「ああ、それってお前らの昼のミーティングの時間帯だろ?」
「そうだな。いつもその時間にいる」
「俺ら、昼交代制だからさ。松嶋は丁度その時間帯にとってるんだよ」
「会議が終わってもいることがあるぞ」
「それは完全なさぼりだ」
「甘やかすなよ」
「懲らしめておく」
 という、やりとりをした覚えがあるのだが。アレは一体どこへ消えていったのだろう。
 その後も頻繁に、松嶋とは顔を合わせた。更に西永繋がりで言葉を交わすようになったのは最近のことである。

「行武さん、上期表彰されたんですってね」
「お前は近所の主婦か。どこから得るんだその情報は」
「食堂のおばちゃんと、受付の事務の子と総務課にいる同期と西永さんから」
「俺のいないところで俺の話をしないでほしいな」
「めでたいことなんだからいいじゃないですか。あ、今度お祝いしましょうね」
 松嶋が楽しげにそう言った途端、エレベーターが上がってきた。扉が開く。中は無人だった。先に松嶋が乗り込む。ドアを押さえてくれた。
「45階でいいんですか」
「ああ」
 そう言ってドアが閉まった。そしてゆっくりエレベーターが作動した直後のことだった。
 突然、停電が起こったのだ。
「!?」
「あれ!?」
 ガコンという嫌な音と共に、急に気が抜けたかのようなやる気のないモーター音が響いてエレベーター内の電気が消えて、運転が完全に止まった。
「マジで」
 松嶋のちっとも焦っていないような声がした。俺は急に失った視力を駆使できずに、手探りでボタンを押しまくった。緊急用があったよな確か。指先に当たった。ビーっという音が響く。数回押した後、反応があった。
「ご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません。東エレベーターですね。この辺り一帯停電が起きました。今早急に回復作業を行っています。しばらくお待ちいただけますか。ちなみに、何名乗っていらっしゃいますか」
「二名です」
「わかりました。機内の電気はもう少ししたら予備電源がつきますので、運転再開は数分お待ちください」
 このやりとりの数秒後、すぐに電気は回復した。さっきよりはかなり薄暗くて弱弱しい光だが、ないよりマシだ。



「電池の切れた携帯を持ってても仕方なくないですか」
「うるさいな。揚げ足を取るないちいち。昼休み中に充電しようと思って忘れてたんだよ」
 返してもらうと、松嶋ががっかりしたようにしゃがみこんで溜息を吐いた。
「そんなに携帯が必要なら、休憩中も持っておけよ」
「休憩中に呼び出されたら、休憩の意味ないじゃないですか…。ああ、残念。せっかく番号聞くチャンスだったのになぁ」
 かなり落ち込んだ様子で、松嶋が頭の後ろを何度もごんごんと壁にぶつける。
「揺らすなアホ」
 叱りつけると、松嶋は大人しくなった。俺は返してもらった携帯を胸ポケットにしまいながら聞いた。
「しかしお前も卑怯臭いな。停電に便乗して番号聞き出そうとするなんて。吊り橋効果でも狙ってんのか」
「え…」
 松嶋が顔を上げた。驚いた様子で俺の方を真っ直ぐ見つめてくる。なんだか戸惑っているみたいだ。
「あれ?今の、分かってたんですか?」
「当たり前だろ。俺を舐めるなよ。大体こういった緊急事態の時に気になる女と連絡取って『大丈夫?今からそっち行こうか?』とか『俺がついてるから』とか言う奴に限っていざという時ちっとも役に立たないんだよ。パニック映画を見て勉強しろ。そんでそんな甘い言葉に騙される女の方にも問題ありだよな。大体男もそんな時に下心出すなってーの。
 ――で?お前が掛けようとしてた相手って誰?」
「………………」
「あ、言いたくないならいいや。俺、前科ありの密告者だしな。信用ならないもんな」
 あははと笑うと、松嶋が突然立ち上がった。また揺れた気がする。俺は怒鳴った。
「急に立ち上がるな!!」
「……今は携帯番号だけで我慢しようと思ってたのに」
「はあ?」
 声を裏返すと、急に松嶋が近づいてきた。そのまま腕が伸びてきて抱きしめられた。
 
 …あれ?どういうこと??

 呆然としていると、右耳に息を吹きかけられて舐められた。
「ぎゃあああ!!」
 絶叫して突き飛ばすと、今度ははっきり揺れたのが分かった。松嶋が壁に肩をぶつけて呻く。
「いってえぇ」
「何をする!?」
 濡れた耳を押さえて喚くと、松嶋が肩を擦りながら言った。
「こっちの台詞ですよ。こんなに凶暴な人だとは思わなかった」
「悪かったな!てか、それ以上近づいたら噛むぞ!!」
「え、蹴ったり殴ったりじゃなくて?」
「蹴ったり殴ったりしたら揺れるからだ!!自慢じゃないが俺は揺れに弱いんだ!!」
「あ、なるほど〜。ちなみに噛むってどこをですか?」
「嬉しそうに聞くな!」
「オレ希望箇所があるんですけど」
「却下だ!!変更だ!!絞める!!それ以上こっちに寄ったら首を絞める!!」
 びしっと人差し指を突きつけると、松嶋が、一歩も動かずに俺のその人差し指を右手で掴んだ。ぎょっとして慌てて振り払う前に、ぐっと体ごと引き寄せられてしまった。すぐに左腕で再び抱きとめられてしまう。
「オレ動いてませんよ〜」
 にやにやする松嶋の股間を蹴飛ばしてやろうかと思った。
 その時。

 
 ガコンという嫌な音が響いた。モーター音が復活する。電気が、さっきより明るい色に変わる。
 エレベーターが復旧したようだ。
 安心して、肩の力が抜けた。良かった。ようやくこいつとおさらばできる。
 ほっとしたその瞬間に。


「………」
「…お祝い、何が欲しいか考えといてくださいね」
 にっこり笑んで寸前にあった松嶋の顔が、俺から離れる。
 45階に着いた。
 俺はエレベーターの中心にへたり込んだ。松嶋が笑いを堪えて廊下に出る。扉が閉まる。





 ――畜生。あいつのせいで、エレベーターに乗れなくなりそうだ。…西永に文句言ってやる。









<END>








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カップリングで50の質問




NO1 お名前を教えて下さい。
  ノゾミ(以下N)「久野希」
  クロ(以下K)「黒川貴行」

NO2 性別、年齢をお願いします。
  N「二十歳の男子」
  K「男。二十歳」
    
NO3 自分の性格を一言で言ってください。
  N「順応性が高いことに最近気がついた。面倒臭がり。あと、ツッコミ体質?」
  K「生真面目で鈍臭いとよく言われる。話すのが苦手」

NO4 では、相手の性格を一言で言ってください。
  N「…なんだろ。面倒臭がり?人のこと鈍臭いって言うけどクロもそうだし。本人気づいてないみたいだけど。あとマヌケ。足が遅い」
  K「最後、性格じゃないだろ。ノゾミは八方美人、世渡り上手。にぶい。不器用」
  N「まっっったく!褒められたことないね、俺はクロに」
  K「オレもない。お互い様だろ」

NO5 2人はいつ知り合いましたか?
  N「大学の入学式」
  K「入学式で偶々隣の席になった」

NO6 その時の、お互いの第一印象を教えて下さい。
  N「クロは外見が怖かったな〜。その時は坊主だったしスーツだし。来る場所違うだろって内心ツッコミまくってた」
  K「今時の軽そうな若者が来たと思った。女に不自由してなさそうと思った」
  N「…そんなこと思ってたんだ」
  K「そんなこと思ってたんだな」

NO7 それは、その後どのように変わりましたか?
  N「見た目、怖そうな上に笑うと凶悪だったけど、他の人から話聞いて、友だちに愛されてる奴なんだなって思った」
  K「アニメの着信のケータイ落としてからだな。案外鈍臭いって思った。実は話し易い奴なんじゃないかと思って声かけた」

NO8 付き合い始めたのは、いつからですか?
  N「え…?いつだろ?」
  K「…春だろ」
  N「え、でも俺クロに付き合おうって言われたっけ?」
  K「…そういえばオレもお前に言われてない…」

NO9 その時、告白はどちらから?
  N「………」
  K「………」
  N「クロだろ」
  K「………じゃあ、オレで」

NO10 ずばり、告白の言葉をどうぞ。
  N「………別にもう今言わなくてもいいじゃん」
  K「オレ、ノゾミのこと好き。キスしてセッ…」
  N「言うなあああ!!!」

NO11 周りの人は2人の仲を知っていますか?
  N「何人かは」
  K「猫にも一匹ばれてる」

NO12 連絡手段は、メ−ルですか、電話ですか?
  N「俺メール」
  K「オレは電話。バイト終わったら電話するようにしてる」

NO13 ではお互いの長所を言い合って下さい。
  N「長所…??」
  K「?マークを2つもつけるな」
  N「意外と人望がある、とか。俺の言えないようなことをさらっと言ってのけるとか」
  K「『意外と』は余計だ。あと後半のはオレへのあてつけか。…気が利く。基本的に優しいとことか意外と面倒見が良いとこ」

NO14 逆に、短所を指摘して下さい。
  N「面倒臭がり鈍臭い間が抜けてる時々空気読まない甘党せっかち寒がり家の中でべたべたすんな」
  K「よくもまあ、そんだけ淀みなく出てくるな。感心するよ」
  N「野球部だったくせに足が遅い。字が汚い。背泳ぎができない。あと持ってる服、原色と暖色多すぎ」
  K「いいだろ別に!てかそれ短所じゃないだろっ」

NO15 人前でも、気にせずイチャつきますか?
  N「したら殴る!蹴る!投げる!!」
  K「…じゃあ物陰に連れ込んでイチャつく努力をします」
  N「!!!」

NO16 相手のイメ−ジカラ−を教えて下さい。
  N「青、かな。初めの私服がそんな色だったから」
  K「白か黒。ノゾミはモノトーンが多い気がする」

NO17 相手に着て欲しい服、つけて欲しいアイテムなどはありますか?
  N「別にないな」
  K「何でもいいのか?」
  N「ないって答えとけ」
  K「………ないです(不満げ)」

NO18 嫉妬はしてしまう方ですか?
  N「…する」
  K「もう鍛えられた。友人時代に」

NO19 浮気は許せますか?
  N「切腹させる」
  K「相手もノゾミも泣かす」

NO20 もしも、相手が素敵な美女と、町を歩いていたらどうしますか?
  N「だから、切腹」
  K「身内か友人か確認する」

NO21 くだらない理由でしてしまった喧嘩はありますか?
  N「クロの取ってたアイスを勝手に食べたとき」
  K「ゲームで連敗したとき」

NO22 (あるなら)その理由は何ですか?
  N「上に同じ。だって冷蔵庫にアイスしかなかったんだよ」
  K「買いに行けよっ」

NO23 身長は何cmですか?
  N「171センチ」
  K「179」

NO24 その身長で、困った事はありますか?(あるならどんな時?)
  N「特にない」
  K「ない」

NO25 言われるとドキッとする言葉を教えて下さい。
  N「好き、とかは未だに言われるとこそばゆい…」
  K「好…」
  N「言わなくていいから」

NO26 相手の好きな食べ物を知っていますか?
  N「ショートケーキ、甘いもの全般。オムライス」
  K「日本酒。筑前煮」

NO27 それは何ですか?
  N「上と同じ。そんだけ甘いもの食っても全然太らないよな」
  K「なんでだろうな?ノゾミは甘いもの食わないよな?」
  N「甘いもの食うと、口の中洗い流さないと気がすまない」
  

NO28 相手と自分、どちらが頭がいいと思いますか?
  N「クロ」
  K「ノゾミ」

NO29 これだけは相手に負けないという特技を教えて下さい。
  N「足の速さ。猫と話せること」
  K「遠投。身長」
  N「身長、特技じゃねえから」

NO30 相手の事を、食べ物に置き換えてみてください。
  N「ええ?なに?なんだろ…みかん?」
  K「それ、今ここにあるから言ってみただけだろ」
  N「だってわからんし。じゃあ、クロはなんだと思う?」
  K「生クリーム」
  N(なんか嫌だ……!!!)


NO31 相手との初エッチはいつでしたか?
  N「……秋になる前」
  K「日にちは?」
  N「もういいだろ!」

NO32 初エッチの場所を教えて下さい。
  K「オレの部屋」

NO33 それは、どちらから誘ったんですか?
  K「オレ」

NO34 その時の感想をビシッとどうぞ。
  K「一言じゃ言い表せない。ノゾミ、なに隠れてんだよ」
  N「……特にありません」
  K「ないのかよ!気持ちよかったとか、なんか色々…」
  N「死ぬ程痛かった!!」

NO35 相手以外の人との経験はありますか?
  K「ない」
  N「ある」

NO36 (あるなら)それは男ですか、女ですか?
  N「女性です」
  K「何人?」
  N「……」
  K「何人?」

NO37 今のポジション(受け攻め)はどうやって決まりましたか?
  K「流れで」
  N「うう…」

NO38 それを一回だけ逆転出来るとしたら、したいですか?
  K「いいけど別に」
  N「いいのか!?」

NO39 相手は、声を我慢する方ですか?
  K「しなくてもいいのにね」
  N「もう嫌だ、この辺の質問…」

NO40 エッチの最中に相手にしてほしい事をあげて下さい。
  K「キス」
  N「…手繋いでてくれたら」

NO41 エッチとキス、どちらが好きですか?
  K「両方」
  N「…キス」

NO42 一人エッチのおかずを教えて下さい。
  K「言っていいんだろうか?」
  N「…もう言わなくていいよ」

NO43 SMには興味がありますか?
  N「ないっ!!」
  K「少し」
  N「!!」

NO44 実際にした事はありますか?
  N「ない!!今後も絶対にないから!」
  K「残念…」

NO45 (攻めへの質問)相手が知らない男に襲われていたらどうしますか?
  K「相手を死ぬ程痛めつける」

NO46 (受けへの質問)相手が美女に誘惑されていたらどうしますか?
  N「クロを殺す」
  K「………オレのことほんとに好きか?」

NO47 性感帯はどこですか?
  K「自分のはよくわからない。ノゾミのなら…」
  N「言わなくていいぞ言ったら殺すぞ」
  K「…なあ、ほんとにオレのこと好きなのか?」

NO48 エッチの時、これだけは止めて欲しいという事を教えて下さい。
  N「声出させようとするの」
  K「別にいいじゃん」

NO49 逆に相手に対する要望があったらどうぞ。
  K「もうちょっとノゾミからもお誘いが欲しい」
  N「風呂場でしようとするのはやめろ」


NO50 では最後に、相手に一言お願いします。
  K「末永くよろしく」
  N「プリンを無理やり俺に食わそうとするのやめろ」
  K「もっと良い言葉はないのか?」
  N「浮気したら殺しますハートマーク」
  K「………」





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カップリングで50の質問


NO1 お名前を教えて下さい。
  「東郷涼太(以下T)」
  「松本和史(以下M)」

NO2 性別、年齢をお願いします。
  T「19歳、もうすぐ20歳の男子です」
  M「もうすぐ28歳、男性」

NO3 自分の性格を一言で言ってください。
  T「マイペース、ですかね〜」
  M「なぜだか薄情だと言われる。俺は潔いと思ってるんだけど」
  T「思うのは自由ですからねぇ」
  M「……」

NO4 では、相手の性格を一言で言ってください。
  T「薄情です!冷たい!自己中!教師のクセに適当すぎます!」
  M「もう教師じゃねえもん。東郷は口うるさい。お子様。素直じゃない。馬鹿」
  T「ほら!やっぱり冷たい!!馬鹿ってひどい!」

NO5 2人はいつ知り合いましたか?
  T「姉の結婚式です」
  M「兄貴の結婚式の会場」
  
NO6 その時の、お互いの第一印象を教えて下さい。
  M「がりがりに痩せた眼鏡のチビ。博士って感じだった」
  T「怖そうなお兄さん。この人と親戚になるのかと、先行き不安でいっぱいでした」
  M「…そんなこと思ってたのか」
  T「博士ってなんですか。そのとき俺相当成績悪かったんですよ。見掛け倒しって言われて…」
  M「お前、子ども時代結構可哀相だったんだな…」

NO7 それは、その後どのように変わりましたか?
  M「大学入学と同時に俺のアパートに引っ越してきた。余りの変貌振りに驚いた」
  T「俺は先生の、余りの変わらなさ振りに驚きました。ちなみになんで俺見て驚いたんですか?」
  M「……博士が来ると思ってたんだよ…」

NO8 付き合い始めたのは、いつからですか?
  T「夏ですね」
  M「猛暑だったのにクーラー壊れて苦労したな」
  T「あ、そうだ!結局クーラー俺が買い換えたんですよ!?先生なかなか直してくれないから!」
  M「まあ、でもあの夏は結局一台で済んだからいいだろ」

NO9 その時、告白はどちらから?
  T「…どっち、ですかね?」
  M「微妙」
  T「でも、先に手を出したのは先生からです」
  M「…だそうです」

NO10 ずばり、告白の言葉をどうぞ。
  T「告白?」
  M「告白…」
  T「されましたか?」
  M「したかな…?」

NO11 周りの人は2人の仲を知っていますか?
  T「久野さんと黒川さんは」
  M「あと、美香子も気づいてるっぽい。春村も」
  T「結構いますね」

NO12 連絡手段は、メ−ルですか、電話ですか?
  T「電話は先生がなかなか出ないので、メールを打ちっ放しです。返信ほとんどないですけど」
  M「俺は電話。用事あるときだけ電源入れる」
  T「緊急の時どうするんですか」
  M「心配すんな。飛んでくから」

NO13 ではお互いの長所を言い合って下さい。
  T「長所……やっぱオトナだけあって決断力がある、とか。潔いとこ、とか…自分犠牲にしてまで俺のこと助けてくれたりとかしたし…」
  M「ほら、潔いだろ?」
  T「自分で言っちゃあ、ありがたみも薄れますけどね」
  M「…東郷くんのいいところは口が達者な点です」
  T「それだけですか!?」

NO14 逆に、短所を指摘して下さい。
  T「自己中過ぎ。部屋汚い。苛々する時俺に当たるの止めてください。もう28なのに子どもっぽいことするのもやめてください」
  M「減らず口叩くのやめろ。もうすぐ20なのに子どもっぽい八つ当たりやめろ。素直になれ。ポメラニアンに告げ口するのもやめろ」

NO15 人前でも、気にせずイチャつきますか?
  T「イチャつきません」
  M「教師だった手前、人前ではちょっと」

NO16 相手のイメ−ジカラ−を教えて下さい。
  M「白」
  T「白。先生は白衣のイメージですが…。俺は何故白なんですか?」
  M(純白と言いたかったがやめた)

NO17 相手に着て欲しい服、つけて欲しいアイテムなどはありますか?
  T「スーツ。今は箪笥の肥やしになっちゃってますので、時々出してやらないと防虫剤臭くなりますから…」
  M「えっ!?そんな理由!?」

NO18 嫉妬はしてしまう方ですか?
  T「…してました」
  M「したなぁ…」

NO19 浮気は許せますか?
  T「拷問してでも吐かせますっ」
  M「相手を気が済むまでぶん殴る」

NO20 もしも、相手が素敵な美女と、町を歩いていたらどうしますか?
  T「別れます」
  M「…え、せめて事情とか聞かねえの?歩いてただけで…?」
  T「別れますよ。先生は?」
  M「なあ、あの、後でお前の美女の基準教えといてくんねえ?」  

NO21 くだらない理由でしてしまった喧嘩はありますか?
  T「しょっちゅうですね」
  M「クーラーめぐってとかな」
  T「あれは後に大事件に発展しましたね。たかが家電ひとつで恐ろしい」
  
NO22 (あるなら)その理由は何ですか?
  T「料理の味付けに関しては毎日のように喧嘩してますねぇ」
  M「お前料理向いてねえんだって。美味いの最初だけじゃん。段々手抜きしやがって」
  T「自分で作らないくせに偉そうに言わないでください」
  M「…すみませんでした」

NO23 身長は何cmですか?
  T「168センチです」
  M「182センチ」
  T「そんなにあるんですか」
  M「うち、兄貴も親父もでかいから」

NO24 その身長で、困った事はありますか?(あるならどんな時?)
  T「今のアパート、台所の棚が高くて不便なんですよね」
  M「俺いるからいいじゃん」  
  T「まあ、そうなんですけど…」

NO25 言われるとドキッとする言葉を教えて下さい。
  T「どきっとするような愛の言葉を、未だ頂いた覚えがございません」
  M「よし、じゃあ選べ。1、好き。2、愛してる。3、ずっと傍にいてくれ。どれだ!?」
  T「…今頂いたので、もういいです」

NO26 相手の好きな食べ物を知っていますか?
  T「煮込みハンバーグ」
  M「果物。特にメロン」
  T「あれ?なんで知ってるんですか?」
  M「昔、美香子に聞いた」
  東郷が不機嫌になった!  

NO27 それは何ですか?
  M「あーっと…、上に同じ…って東郷くん、機嫌直せよ。ほら、メロン、切ってやるから」
  T「……どうしたんですかこれ」
  M「昨日買っといた」
  東郷の機嫌が直った!!

NO28 相手と自分、どちらが頭がいいと思いますか?
  T「先生。一応、元教師だし」
  M「一応ってなんだ!?」

NO29 これだけは相手に負けないという特技を教えて下さい。
  T「ポメラニアンからの愛情」
  M「理系の知識」

NO30 相手の事を、食べ物に置き換えてみてください。
  T「苦瓜」
  M「うわ、微妙な…」
  T「俺はなんですか?」
  M「骨が多くて食い難い美味い魚」


NO31 相手との初エッチはいつでしたか?
  T「夏ですね」
  M「真夏だな」

NO32 初エッチの場所を教えて下さい。
  T「先生の部屋でしたね」
  M「クーラー壊れてたし」

NO33 それは、どちらから誘ったんですか?
  T「先生が無理やり…」
  M「おい!人聞き悪いこと言うな!」
  T「無理やりキスしたじゃないですか!」
  M「今更むしかえさなくてもいいだろっ!つかなんだこの質問!?」

NO34 その時の感想をビシッとどうぞ。
  T「殺されるかと思いました」
  M「……もう俺は何も言わない」
  T「めちゃくちゃ嬉しそうでした」
  M「だから!!言うなっつーの!!!」

NO35 相手以外の人との経験はありますか?
  T「初めてだったのにひどいです」
  M「…………」
  T「先生は遊び人だったという設定でよろしかったでしょうか?」
  M「もうお前黙ってろ〜!!」

NO36 (あるなら)それは男ですか、女ですか?
  T「意外や意外、全部女性なんですよね?男は俺が初めてだったんですよね?」
  M「はい、そうですが、なにか!!??」

NO37 今のポジション(受け攻め)はどうやって決まりましたか?
  T「むりやり」
  M「俺がそっちは無理あるだろ」

NO38 それを一回だけ逆転出来るとしたら、したいですか?
  M「しなくていい」
  T「どっちでもいいです」
  M「…!!」

NO39 相手は、声を我慢する方ですか?
  M「する。それがムカつく」
  T「だって悔しいじゃないですか」
  M「ベッドの中でくらい大人しく鳴いてりゃいいんだよ!」
  T「うわ、最っ低!!」

NO40 エッチの最中に相手にしてほしい事をあげて下さい。
  M「だからもっと鳴けってば」
  T「じゃあもっと恥かしい甘いことばを口にしてくれたらそうします」
  M「………(思いつかない)」

NO41 エッチとキス、どちらが好きですか?
  M「選べない」
  T「どっちも」

NO42 一人エッチのおかずを教えて下さい。
  M「DVD」
  T「それって、辞書ケースに挟まってたやつですか?」
  M「見たのか!!?」

NO43 SMには興味がありますか?
  M「別に」
  T「特にないです」

NO44 実際にした事はありますか?
  M「今度してみる?」
  T「実行したら五ヶ月無視しても良いのなら」
  M「…やめときます」

NO45 (攻めへの質問)相手が知らない男に襲われていたらどうしますか?
  M「光速センテンスの7話を読めば分かります」

NO46 (受けへの質問)相手が美女に誘惑されていたらどうしますか?
  T「鳩尾を5〜6発殴ってから別れます」

NO47 性感帯はどこですか?
  M「耳?」
  T「目蓋とか?」

NO48 エッチの時、これだけは止めて欲しいという事を教えて下さい。
  T「する直前にポメラニアンに意地悪して追い出すこと」
  M「これからやるって時に、近所のスーパーのお買い得情報を教えてくれること」

NO49 逆に相手に対する要望があったらどうぞ。
  M「素直になれば可愛さが増すのに」
  T「講義が一時限目の前日は避けてください」

NO50 では最後に、相手に一言お願いします。
  T「ポメラニアンに意地悪しないでください」
  M「してねえよ!可愛がってるだろ!お前こそ、もっと俺に素直に愛情表現などしてみたらどうだ!?」
  T「では、またの機会にでも」
  M「いつだよ!?え?マジでもう終わりかよ?!」
  






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1.お名前は?
 「春村十香で〜す」

2.ご職業を
 「桜飛大学三年生。ちなみに教育学部です!」
 
3.年齢は?
 「21になりました」

4.性別を
 「腐女子です☆」

5.座右の銘は?
 「嫌よ嫌よも好きのうち?」
 
6.貴方の周りのバカップルに付いて質問させていただきます
 「いますよ!何組も!!」

7.バカップルのお名前は?
 「黒川貴行と久野希。とりあえず今日はこの二人でっ」

8.バカップルの性別をどうぞ
 「男の子同士です。うふふふ…」

9.奴らが付き合い始めてのを知ったのはいつ頃?
 「夏か、秋かな〜。はっきり言ってくれなかったから曖昧です」

10.素直に祝福できましたか?
 「もちろん!仲人ですから!!」

11.そうでゲスか…(……)
 「色々苦労したんですよ、水面下で。本人たち気づいてないけど」

12.気を取り直して次の質問です!
 「よ〜し!何でもこ〜い!!」

13.バカップルの片割れから恋愛相談を良く受ける?
 「受けますよ〜。てか仕向けた?みたいな」

14.相談事の内容など詳しく教えてください
 「それがですね!友人以上なのかどうか自分でもわかんないとか言い出して!!あたしの努力なんだったの!みたいな!」

15.その中で一番ムカついた事は?
 「結局付き合ったくせに、報告が遅かったこと!!最初に、あたしには何でも報告するって契約書書かせとけばよかった!」

16.共感してしまった事
 「共感…はないかな?こっちは娯楽で聞いてますから(きっぱり)」

17.ノロケとしか思えなかった事
 「のんちゃんに初体験の感想を聞こうとくっついて回ってたら、黒川くんにどつかれたこと。そんでその後こっそり二人の後つけたら手を繋いでました。その時はほんと、デジカメのムービー使って録画して漫研女子部に売り捌こうと思いましたよ」

18.今ならバカップルどもを殲滅しても許されると思った事
 「上の出来事。てか構内で手繋ぐくらいなら、あたしらのまん前でしろっつーの!!

19.自分を巻き込まんでくれと思った事
 「いえ、巻き込んでほしい!いつでも飛び込んでく覚悟はできてますので☆ていうか寧ろ引っ掻き回すだけ引っ掻き回してどえらいことになって別れる寸前になったところであたしが二人を取り持って結局ラブラブかいっみたいな展開に持っていきたいな〜!そんで最後はちゃんと現場押さえさせてくれたら言うことありませんね!!」

20.何だかんだ言ってお前らラブラブだなぁと思った事は?
 「構内で手繋ぐし絶対あれチューもしてると思う。教育現場でけしからん、ですよね!?(嬉しそう)
 でも最近、遊んでくれなくなったなぁ。のんちゃんも警戒して冷たくなったし…。大抵、二人でいるし、平日も休日も一緒みたいだし、選択科目も一緒だし…あたし除け者にされてるんです…ひどいと思いません!?」

21.貴方に相談を良く持ちかけるバカップルの片割れは誰でしょう?
 「黒川くん。高校時代の元野球部仲間です」

22.その片割れは受or攻どちらですか?
 「攻めでしょ。受けでもいいけど。寧ろ受けだったら面白いけど」

23.最近相談聞くのが辛くなってきた
 「最近相談してくれなくなりました…。あたし用ナシ!?

24.そんなにヤツレた顔をしないでください…そのうちイイ事ありますよ(多分)
 「そうですかあ?でも絶対、えっちの感想は教えてくれないんですよ!!なんで!?ばれてるんだからもう言っちゃえばいいのにっ」

25.所で貴方はお付き合いしている方は?
 「いますよ。でも奴、ノーマルなんです。ちぇっ、つまんない…。あ、でもコスプレさせたりしてますよ!渋々着てくれるのがもうあたしの嗜虐心をそそるっていうか!!」

26.………野暮なこと聞いてスイマセンでした…………
 「彼氏にいい男性、見つからないかなぁ…」

27.まぁ…そんな貴方にバカップルが及ぼしている影響は?
 「作品意欲が掻き立てられます!!内緒だけどネタにしたり。あ、もしやそれで避けられてるのかな!?」

28.ラブラブバカップル台風接近中!!避難勧告発令!!主な被害内容は?
 「今のところ、嵐は聞いてないですね。クリスマスにちょっと煽ってみたけど、結局ラブラブになってたみたいだし。つまんな〜い」

29.バカップルがラブラブしているのを見て大変困った反応をする別の友人がいる?
 「違うんです!奴らは人前じゃ、ラブラブっぷりを見せつけないんですよ!!寧ろいい友人で通してるの!だから今度はそこをつつこうかと…」

30.その人の主な行動内容は?
 「あ、涼太くんは面白がってるみたいですよ」

31.その困った友人の尻拭いをよくさせられるのは自分だ
 「涼太くんたちの話も聞きたいのに〜。のんちゃんたちより口堅いんですよ!みんな秘密主義なんだからっ」

32.バカップルだけではなくその困った友人も「殺っちゃいたい」と思った事がある
 「涼太くんとあたしが組んだら最強だと思うんだけどなぁ」

33.今一番願うのは自分の心の平穏を保つことだ
 「いえ、寧ろどきどきはらはらを願ってます!!」

34.貴方の心の平和と安全を保つために消えて欲しい奴の名をこっそり教えてください
 「のんちゃんと黒川くんの仲を邪魔する女子に、あたしは容赦しません

35.そうですか……強く生きてください…
 「はい(にっっこり)」

36.奴らが巻き起こした事件で一番困ったことは?
 「あ〜、猫ちゃんの事件かな〜。黒川くんが意識失ったときは正直泣くかと思った。のんちゃんが」

37.微笑ましかった事
 「付き合うことになったって、黒川くんが、電話じゃなくて大学で直接教えてくれたとき。それは、もう普通に友人として嬉しかったです。ああ、よかった〜って、素直に祝福できました」

38.思わず縁を切ってやろうと思った事
 「えっちの報告がなかったこと」

39.自分まで巻き込まれた事
 「猫ちゃんの事件。まああれがきっかけだったらしいですから、いいんですけどね。のんちゃんの女装も見れたし」

40.逆に自分が奴らを巻き込んだ事は?
 「ありません(きっぱり)」

41.大変!!バカップルに破局の危機が迫っています!!さて貴方はどうしますか?
 「マジですか!?駆けつけます!例え面接中でも!!面白そう〜〜〜!!!」

42.そこで仲を取り持つと言われた貴方…貴方の熱い友情に乾杯!!
 「あ、やっぱり取り持たないと駄目ですか?煽った方が後々激しく愛し合ったりしません?」

43.……スイマセン質問でも何でもない事をほざきまして……以後気をつけます……
 「大丈夫です!ついていけてますんでっ」

44.さてそんな貴方をバカップルはどう思ってるんですかね?
 「非常に頼もしい友人でしょもちろん」

45.ココでいっちょ奴らに貴方の有難みを教え込んでおきますか?
 「いいですね!そんでいい加減、感想を聞かせろと!だってリアルで見たいもん〜」

46.貴方の事を自画自賛してみてください
 「言わば仲人ってか、キューピッドって言うんですか?アレ的なものだと思ってるんですけどあたしは。あたしが煽らなきゃ黒川くんなんか自分の気持ち気づかなかったくせにっ!のんちゃんだってあたしのデジカメ見せてあげたのにっ!!…でもあたしは彼らから正当な評価受けてないっていうか、あたしのお陰なんだからもっとイチャつく場面を見せろ〜〜!!!

47.奴らの愚痴を思いっきり叫んでください
 「あたしをもっと敬え!!」

48.長々と48問目ですが中途半端ですね……
 「お、もうすぐ半分ですね!」

49.いっそ50質にしちゃ駄目ですかね?
 「あたしまだまだ話せますよ〜」

50.……まぁ冗談はこのぐらいにして…次からバカップルを単体で検証していきたいと思います
 「オッケーです!」

51.バカップル受について…貴方はどう思っていますか?
 「のんちゃんは、あたし実は好みのタイプでした。線が細い感じで、なんかしっかりしてなさげなのに、ひとりでてきぱきやっちゃうとことか。女好きなイメージがあったんで、よもや黒川くんが初めにひっかけた相手にしては、難易度高って思いましたけど」

52.受の属性を客観的に分析してみてください
 「誰にでも優しいです。特に女の子には。人当たり良いって言うんですかね。もてるタイプだな、とは思いました。益々黒川くん正反対じゃんっ駄目じゃんって思いました」

53.バカップルになる前受と貴方はどんな関係でした?
 「コンパ仲間。今は友人、ですかね〜」

54.受の良い所は?
 「だから優しいんですよ。よく気がつくっていうか。それでほだされる女子が何名もいてですね〜、彼女らを諦めさせたのもあたしなんですよ!?もっと感謝しろ〜!!」

55.悪い所は?
 「八方美人の自覚なしってとこですか。あと最近あたしに冷たい」

56.実は受に淡い恋心を?
 「初めは。でもなんか皆に対しての態度が一緒なんだってことに気づいて、あたしは冷めました」

57.受とは何処で知り合いましたか?
 「入学式でですね」

58.初対面の受の印象は?
 「受けだなって」

59.今受と友人で良かったと思うことは?
 「からかうのが楽しい〜〜っ♪」

60.逆に受と友人で後悔した事
 「彼に泣かされた女子の後始末に手こずったこと」

61.貴方と受との友人としてのお付き合い暦は?
 「三年目突入ですね」

62.攻といる時の受は貴方の目にどう映っていますか?
 「それが全く普通なんですよ。顔を赤くさせるとかしたら可愛さアップなのに、のんちゃんそういうとこ計算できてないっていうか」

63.受のノロケってどんなの?
 「ノロケないんですよね…。あ、そういや前に『黒川くんとどんな感じ?』って聞いたとき、ちょっと目を逸らして照れてました!あれ可愛かったな〜」

64.攻と喧嘩した時の受の様子は貴方の目にどう映っていますか?
 「本気でキレてますけど。食堂でオムライスセットが丁度黒川くんでラストだったときとか…。結局交換してもらってたなぁ…なんなんだろあいつら…ほんとに付き合ってんのかなと時々疑いたくなりますね」

65.貴方以外の周りの人間は受の事をどう思ってるんでしょう?
 「話しやすいって評判です。野球部仲間にも溶け込んでるし」

66.バカップル攻について…貴方はどう思っていますか?
 「秘密主義っ!!」

67.攻の属性を客観的に分析してみてください
 「のんちゃんと正反対ですね。話すの苦手だし、非社交的。野球馬鹿だったし、恋愛は疎い」

68.バカップルになる前攻と貴方はどんな関係でした?
 「元レフトとマネージャー」

69.攻の良い所は?
 「嘘つかない。言い訳しない」

70.悪い所は?
 「自分で考えこみすぎっ!もっと頼ってほしい!」

71.実は攻に淡い恋心を?
 「う〜ん、どうだろ…。早く幸せになれっとは思ってましたけど…恋愛感情はなかった気がします」

72.攻とは何処で知り合いましたか?
 「高校の野球部で」

73.初対面の攻の印象は?
 「いかつい。攻め」

74.今攻と友人で良かったと思うことは?
 「貴重でリアルな情報を得られること」

75.逆に攻と友人で後悔した事
 「特にないですね〜」

76.貴方と攻との友人としてのお付き合い暦は?
 「高一からだから…六年目ですね」

77.受といる時の攻は貴方の目にどう映っていますか?
 「幸せそうですね〜いいなあ」

78.攻のノロケってどんなの?
 「言葉では言わないですけど、食堂でのんちゃんの好きなデザートあげたりマフラー巻いてあげたり寝癖直したりしてあげてるのを見ると、あぁって思います。あたしが色眼鏡で見てるからなんでしょうけど」

79.受と喧嘩した時の攻の様子は貴方の目にどう映っていますか?
 「ちょっとうろたえた後に折れてますね。完全尻に敷かれてるんじゃないですかね」

80.貴方以外の周りの人間は攻の事をどう思ってるんでしょう?
 「無口ですけど頼られてますね。大勢で遊びに行くときも、必ず黒川くんの名前があがるし」

81.彼らがカップルでよかった事は?
 「貴重な研究材料を得ることができたこと」

82.逆に悪かった事
 「女子の敵が増えたこと。特にのんちゃんサイドの」

83.苦労した事は?
 「その女子の駆除」

84.貴方がこれからもバカップル達にしてあげようと思う事は?
 「彼らがラブラブでスリリングに満ちた大学生活を送れるように全面的バックアップを心がけること」

85.逆にこいつ等にしてもらってもバチ当らねぇだろうと思う事
 「キスシーンくらい見せてもらってもバチ当たらねぇと思いますけど」

86.彼らとの友情は永遠ですか?
 「もちろん!!!」

87.自分も恋人が出来たら彼らに負けないバカップルになってやろうと思ってる?(もしくは恋人がいてバカップルだ)
 「他人のバカップル見てる方が楽しいですけどね〜。まあ、相手次第です」

88.世界が彼らを祝福しなくても自分は祝福してあげようと思う
 「当然じゃないですか!!」

89.誰がなんと言おうと彼らの味方であるつもりだ
 「あたし以外誰が味方になりますか」

90.後10問です頑張っていきましょう!!
 「え、もう!?早いですね〜」

91.当てられると解っているのにバカップル達が悩んでいると手を差し伸べてしまう?
 「男性同士のカップルなら喜んで!」

92.お優しいのですね…そんな貴方に「苦労人」の称号を授けましょう
 「いえ〜、あたしは苦労してませんので。お気遣いなく」

93.何だかんだいって自分はお人よしなのかもしれない?
 「そうですね、正にその通りですよ!」

94.多分奴らはそこに付け入ってるんですよ?
 「そうなんですかね!?実は計算高いのかな二人とも」

95.これからも当てられまくりの人生決定だと思う?
 「全然オッケーですよ!」

96.とんでもないバカップルさんたちですが結局は迷惑掛けられても許してしまう
 「許します」

97.貴方にとってバカップルとは?
 「最高の娯楽」

98.バカップル攻に一言
 「もっといちゃついてるとこ見せて!」

99.バカップル受に一言
 「のんちゃんの、のろけてるとこが見たいの!」

100.この質問の感想を一言
 「男性カップルの皆様、わたくし、春村十香があなた方の恋をお手伝いしますよ〜!興味を持たれた方は、是非、桜飛大学教育学部三年、中上ゼミの春村までよろしくお願いしま〜す!!」









テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学


 ニ年付き合っていた彼女に振られた。
 朝、教室に入った途端に「大事な話がある」と中庭に呼び出されて、嫌な予感がした。
 指輪ずっとしてなかったし。バイトのシフト増やしてるし。電話出ねえし。
 はっきりもう分かってたのに、面倒だから俺から言わなかった。言わせたようなものだ。
 でも、それでもやっぱり――


「ごめんね、修ちゃん。あたし、好きなひとできた」
 あっさりはっきり結果のみ伝える。その潔さが好きだったのだが、今となればそれは絶対溶けない氷みたいだと呑気に思う。
「…バイト先の奴?」
「うん…、ごめん」
「わかった」
 俺があっさり頷くと、一瞬琴子がほっとしたように見えた。すぐに持っていた紙袋を手渡される。
「これ、借りてたCD。ありがとう」
「ああ…」
 準備のよろしいことだ。すっぱりこれでおさらばですね。
「じゃあ、教室戻るね」
「ああ」
 琴子が制服のスカートを翻して去って行く。その後ろ姿を眺めてから、俺は溜息を吐いて側の木に寄りかかった。
 紙袋の中身は彼女の好きだったアーティストのアルバム数枚。好きだというから全部揃えた。今となっては忌々しい遺品だ。
「………」
 もういらねえよな。誰か、奇特な奴に拾われろ。
 俺は紙袋を、その木の下に置いてから立ち去った。



「香芝〜!コレ、お前のじゃない?」
 昼休み。滅多に人の来ない四階の踊り場で不貞寝していると、明るい声が近づいてきた