メンタルメンテ

 
07
 
 雪花がどこで摘んできたのか、色様々な花を持って走ってきた。
 あれから一週間後、落ち着きを取り戻した香奈佳ちゃんと、雪花の3人で、マンション前の公園の隅に、キリンの墓を拵えた。黄色い首輪を、盛った土の上に置いた。
 3人で並んで手を合わせた。
「…痛い思いさせてごめんね」
 香奈佳ちゃんが呟くのを、オレは黙って聞いた。
 この子は痛みがちゃんと分かる子だ。もう二度と、生き物を痛めつけることはしないだろうきっと。

 香奈佳ちゃんが立ち上がった。
 オレと、雪花を順番に見上げる。
「ありがとう、おにいちゃんたちに頼んで良かった」
「…あんま役に立てなかったけど」
「助けてくれたよ、いっぱい」
 香奈佳ちゃんが、オレの右肩を見つめる。実は、香奈佳ちゃんを助けた際に、軽く脱臼しかけたのだ。今でも腕を上げると少し痛い。
「おにいちゃんたちがピンチの時、香奈佳助けに来るよ」
「…頼りにしてるよ」
 笑って言うと、香奈佳ちゃんもにっこり笑った。
 
 母親との関係の修復には時間がかかるかもしれない。
 紀凛の死を受け入れるのにも時間がかかるかもしれない。

 でも、多分、生きてればきっと、回復する。
 そう信じてなきゃ、やってられないじゃん。

 彼女が笑って走り去る。
 オレと雪花は、彼女を笑って見送った。
 




 
 縁の待つ710号室に戻ると、縁がソファでごろごろしながら本を読んでいた。オレと雪花が戻ると、目だけ上げておかえりと言う。
「…お前の広告、評判だな」
 嫌味ったらしくそう言って、縁が体を起こした。そのまま、ばんっと手を置いて机の上に広告を広げる。雪花と二人で覗き込む。オレお手製の広告だ。その下の方に、見覚えのある縁の文字で『紺野和直』という名前と、ケータイの番号が書かれていた。
「なにこれ?誰?」
 オレが広告を手に取って、縁に尋ねると、縁がもう一枚の広告をオレに突きつけた。マンション売り出しの広告の裏に、『弟に襲われる』という走り書き。
「はあ?どういうこと?」
 オレが声を裏返すと、縁が淀みなく流れるように説明を始めた。
「依頼人の名前は紺野和直。製薬会社に勤める30歳。同居している弟は和平21歳、桜飛大に通う大学生。最近、夜になるとその弟の和平が暴れ出して兄貴を襲うんだと。それをなんとかしてくれっていう依頼だ」
「単なる反抗期じゃねえの?」
「21で反抗期か」
「それか壮大な兄弟喧嘩」
「首絞めたり、ナイフ持って暴れるらしいぞ」
「単なるドSか」
「ドSってなに?」
「雪花の前で変な単語は使うな」
 ぎろりと音が聞こえそうな勢いで睨まれ、オレは口をつぐんだ。
「とにかく、こんだけ立て続けに面倒が押し寄せてきてんのはお前の所為なんだからな。一回お前が話聞いてこい」
 ぺしっと広告を投げつけられ、オレはそれを顔面で受け取った。


 紺野邸はでかかった。お世辞にも高級住宅街とは言えないこの辺りで一番大きいんじゃないかと思えるくらい立派な家に、兄弟二人で暮らしているらしい。
「…掃除大変そうだな…」
「お前の発想はいつも平和だな。羨ましいよ」
 話を聞いて来いと言ったものの結局はついてきた縁が、大きく息を吐いて、紺野家のインターホンを鳴らした。

 紺野和直は、いかにも真面目で堅そうな人物だった。休みの日だというのにスーツ姿。一分の隙も無さそうな堅い表情で、正面に座るオレと縁を交互に見遣る。
「わざわざご足労いただきまして申し訳ありません。本来ならこちらから伺うべきでしたのに。何せ原因がまるで不明ですからね。警察に行こうにも病院にあいつを連れて行こうにも、日中の和平はまるで普段どおりなのですから。どこに、誰に相談していいか分からず、たまたま拾った広告を見て、これだと思い、お呼びしたのですが…」
「それは、どうも」
「よもやこんなお若い方々がいらっしゃるとは思ってもみませんでしたがね」
 明らかに不審がられている様子だ。確かに全身黒尽くめの垂れ目の男は怪しい。隣の縁を、なんで常に上下黒なんだよ趣味悪いんだよという意味合いをたっぷり込めてじろりと睨むと、向こうも同じことを考えていたらしい。なんで制服で来てるんだよ舐められるに決まってんだろ馬鹿かという蔑み目線でオレを見下ろしてきた。 
 二人で無言で睨みあっていると、リビングの入り口の方から場違いな明るい声が聞こえてきた。
「あれ?兄ちゃん、帰ってんの?」
 ひょこっと顔を覗かせたのは、至って普通な好青年。恐らく噂の和平氏だろう。縁とそう変わらない年齢なのに、ラフな格好のためか、こちらの方が若々しく感じる。
「こんにちはー。兄ちゃんの友達?」
「「違います」」
 オレと縁が声を揃えると、和直氏が立ち上がった。
「こちらが弟の和平です」
「二城縁です。こっちは単なる下僕ですのでお気になさらず」
「めちゃくちゃ気になりますが」
 オレが縁に文句を言う前に、和平さんが興味津々といった様子でオレの方を覗き込んできたので、思わず後ずさる。すると、和直氏が、弟に声を掛けた。
「和平。お前バイトがあるんだろう。早く支度しないといけないんじゃないか?」
「あ、そうだった。それじゃ、俺はこれで。どうぞごゆっくり〜」
 人懐こそうに笑んで、和平さんがリビングから去った。その後姿を見送って、縁が呟いた。
「…ナイフを持って暴れるようには見えませんが…」
 縁の言葉に、和直氏が首を振った。なんだかとてもしんどうそうだ。頭痛を堪えるようにしてから、口を開いた。
「日中は良いんです。普段のあの子はとても明るくて人懐こい素直な子なんです。でも、夜になると豹変するんですよ。まるで何かが乗り移ってるんじゃないかと思えるくらいに」
 和直氏の言葉を受けて、縁が大きく溜息を吐いた。
「…参りましたね」
 弱音を吐く縁が珍しくて、思わずまじまじと見つめると、縁が肩を竦めて言った。
「お祓いはしたことがない」
 果たして真面目に助ける気があるんだろうか。
 胡散臭げに見つめると、縁が和直氏からは見えないようにオレの背中を抓ってきた。






 










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「紺野兄弟編」突入です。男兄弟書くのって、何故か抵抗が…
基本、姉弟が好きなようです。ってどうでもいいですね!
また暗くなっていきますが、よろしければおうえんおねがいします☆















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Comment

2008.10.08 Wed 00:08  |  

香奈佳ちゃん(ノд<。)゜。
よかったですね〜
幸せになってほしいです♪

いよいよ突入ですねっ★
どんな展開か
ドッキドキですよ〜(*/ω\*)
男兄弟…襲われるって
アレかと思ってしまいましたorz
そうです絡みの方です(゜∀゜)!
もう末期ですね私(汗
首やナイフできずかされました笑

イチゴ様は
姉弟の方が好きなんですね〜^∀^
  • #-
  • あんな
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2008.10.08 Wed 00:20  |  

こんばんわ〜。
いよいよ新しい事件に突入ですね。
男兄弟…私は2人姉妹なので男兄弟の内情がよくわかりませんが、
そのぶん妙な期待があるようです(笑)。
イチゴさんの描く男兄弟もすごく興味があります。
しかも弟が兄に暴力! 
…ここは萌えてもよいところなのでしょうか。不謹慎?(笑)
とにかく先が楽しみです♪

2008.10.08 Wed 23:49  |  

あんな様
毎度!コメントありがとうございます♪何故だか2つ全く同じコメントが入っちゃってたので、一つは消してしまいました…すみませんっ!!でも、熱い思いが伝わってきました。笑 ありがとうございます♪♪あっちの方もありがとうございます!笑
はい、兄弟登場でございます。BL小説なんだから、あんな様のご想像通り、そういう系にすりゃよかったんですけどね…というか、この話、しばらくBL遠ざかって
っと、いけねえ!いや、大丈夫です!多分…(コラ☆)
姉弟好きですね〜!お姉ちゃんに振り回される弟に萌え。私の書く男兄弟は、なんだか仲悪くしちゃうんですよね…(松本兄弟といい)果たして、縁と聡ちゃんはこの二人の仲を取り持てるのでしょうか…!?お楽しみにっ☆


朔田様
どうも〜!コメントいつもありがとうございます♪すごく励まされます!
男兄弟…わたしも妙な幻想を抱いてます。仲の良い男兄弟なんて、存在しないんじゃないかと…!!(そっち!?)仲良くないんだけど、オトナになってから和解していくっぽいのが好きなようです。
そして、今回は弟が兄貴に暴力…ハードです。自分で自分の首を絞めてます。(毎回です)朔田さんに萌えを与えられるか否かは……が、頑張りま〜す!!
  • #-
  • イチゴ
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2008.10.09 Thu 11:54  |  こんにちはー

何かちょびっとだけ久し振りなコメです。
毎日通わせていただいてるのですが、香奈佳ちゃんが
かわいそうでかわいそうでコメ入れできず…(弱虫ウェ〜ン
良かった〜〜〜…とホッとしてます!

紺野兄弟編面白そうですね!
楽しみだなぁ〜。
  • #-
  • りり
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2008.10.09 Thu 17:24  |  


テンションあがりすぎの
ミス操作ですよ〜Σ( ̄□ ̄;)笑
気持ちはそのぐらい
なので受け取って
もらえて嬉しいです♪♪

考えてましたか(^∀^)♪笑
あえての逆きましたね〜
それはそれで楽しいです(>ω<)


年下の男の子…いいですよね!
私も姉弟の可愛い弟キャラ
すきですよ〜(*´∀`*)むふ
すこしツン気味が最高…笑

うぁあ〜(*/ω\*)
すごく気になりますッッ!!
イチゴ様煽るのがお上手…笑
これはもう
じっくりゆっくり
お付き合い
させてもらいますよ−★笑
  • #-
  • あんな
  • URL
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2008.10.10 Fri 18:18  |  

りり様
きゃあ!コメントありがとうございましゅ♪♪毎日、来ていただいてるだけで光栄です〜♪うわい♪
香奈佳ちゃんは皆さん同情してくださってるようで、幸せな子になりました。小さい頃に経験した辛い出来事というのは、周りの大人や環境次第で、毒にも糧にもなる気がしました。縁たちが関わることで、香奈佳ちゃんは勿論、彼女を支える周囲にも良い影響が現れてくれるとよいと思います。
って真面目に書きすぎましたね…
紺野兄弟…自分で考えたのに、名前が似すぎ…!


あんな様
うふふふ♪テンション上げちゃってすみません☆(コラ)
弟のツン…!イイですね!わたしの書く弟キャラは、みんなお姉さまに振り回される系なので、是非次回の参考に…っ!
妹に甘いお兄ちゃんキャラも好きなんですけどね…ぼそっと呟いてみる。
煽り続けてすみません。笑
ちなみに、いつもどこで切ろうか悩みます。他の方に比べると、私の一話長い…かな?切りどころが微妙なのでいつも長くなります。携帯のひと、ごめんなさい…ってここで謝ってみる。
まだまだ続きますので、よろしくお願いします♪
  • #-
  • イチゴ
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